火影ナルト
愛が赦される日



その道のりを説明するのには長い時間が必要だから、簡単に言えば、彼は、何十歩も後ろにいた私たちをいつの間にやらどんどん追い抜いて、この里で一番偉い人間になった。
不思議なものだ。こう言えば本当に格好のいい話ではあるが、実際の所、私たちの火影様は、やる気がなくて、いっつも書類を馬鹿みたいにため込んで、泣きべそをかいている。彼は昔から何一つ変わらないダメな男だ。
私は今日も怒鳴り散らすのだろうかと頭を抱えながら、火影の部屋の扉をノックした。

「失礼します」
「おーう」

あれ、と少しだけ驚いた。普段だったら、返事も返ってこない。中を覗けば死んだような形相で、莫大な書類の中に埋もれているというのに。
今日はやけに気分の良さそうな声が、扉の向こうから聞こえた。目をぱちくりさせながら扉を開くと、普段の部屋とは比べ物にならないほど綺麗に片付いた部屋が目に入って、
その中央で余裕な表情をしながらお茶をすするこの里の現在の火影…うずまきナルトの姿があった。朝日が大きな窓から差し込んで、随分と優雅な景色だ。
ぽかんとしたのも束の間、はっとして我に返る。いやいや、何をしているんだコイツは。昨日腐るほど仕事が残っていたというのに。何を悠長にお茶なんか飲んでいるのか!

「グフォッ!?」

言葉より先に、手が出ていた。これを直せと言われても、師匠譲りなのだから、仕方がない。拳が頬に食い込んで、ナルトは椅子ごとひっくり返った。

「ア、ア、アンタ何考えてんの!?どんだけ仕事残ってると思ってんの!!バカ!!」
「サ、サクラちゃん…こ、これ…これ…」

鼻血をタラタラと流しながら、震える指で机を指差した。その先には積み重ねられた書類。「だから、これ全部…!」目を通しておいてくださいって言ったでしょう!そう言うつもりで、口が止まった。
よく見ると、火影の判が押してある。慌てて手に取って、確かめる。順に確認していくと、次も、次も次も次も…どれも全て判が押してあった。

「や、やってあるってばよ…サクラちゃん」
「…す、すごい…」

イテテと頬と腰を擦りながら、ナルトが言った。私は思わず感嘆の声をあげる。通常で考えれば、これは当然なのだ。
やってあって当然のことに凄いというのは正直どうかと思うが、綱手様も似たようなものだったので、感覚がどうもおかしくなってしまっている。
しかし、それにしても火影に対してあまりに失礼なことをした、慌てて頭を下げる。

「ひでーってばよサクラちゃん!!」
「ご、ごめんなさい…。どうしたんですか、あれだけの書類をこんな…」
「んー?オレってば頑張って終わらせちゃった」
「…徹夜で?」
「そ!偉い?」
「…なんで?」
「なんでって!なんでって!そんなんサクラちゃんとデートするからに決まってんだろォ!」
「なんで?」
「なんで!?サクラちゃん誕生日だろ!?あ!誕生日おめでとう!サクラちゃん!」
「誕生日…あ」

彼がすごい剣幕でビシィっと指さす先にあるのは壁にかかっているカレンダーだ。見ると28日に謎のハートマークが付いている。それで、というのはいささか腑に落ちないが、思い出す。
ああ、そうか今日は私の誕生日じゃないか。あまりの忙しさにそんなこと頭から抜け落ちていた。

「オレってば、午後の予定バッチリ空いてるからさ〜」

火影の羽織を腕までまくり、いかにも張り切った素振りを見せる。
しかしデートとか、私にはそんなことしてる暇なんてない、仕事だってたくさんあるのだ、そう言おうとした瞬間、右肩をポンと叩かれた。
びっくりして振り向くと、人差し指が頬に突き刺さる。眉間に皺が一つ増えるのを感じながら、その指を握ると、フフフと薄い笑い声がした。

「やあサクラ、誕生日だね。おめでとう」
「サイ…」
「なにをプレゼントしようかずっと考えてたんだけど…思いつかないなあ。あ、そうだ。ボクが今日の君の仕事を代わりにやるっていうのは…どうかな?」
「わっざとらしい…」
「そんなことないよ、ふふ」
「決まりだな!サックラちゃんっ!」
「…どうもありがとう、サイ」
「うん」

いつの間にやらちゃっちゃか出て行ったナルトを追いかけるように、私も部屋を後にした。
ちらりと振り返ると、ニコニコ笑いながらサイが手を振っている。いつも通り胡散臭いけれど、でも確かに嬉しそうな、そんな表情だった。

「いやー久々だなぁーデート!」
「アンタって…ホント変わらないわね」
「マジ?」
「ガキのまんま!」
「えぇー!んなことねーよ!火影だってばよ!?火影!」
「マジ仕事の時とか火影様〜って呼ぶの気持ち悪くて…」
「ひでぇ!じゃあいつも通りナルトでいいってば!」
「それもなんか距離近すぎてイヤ」
「ガーン…」

デートっていうのだから、何かしら計画でも立てているのかと思ったが、それはやはりナルトだった。全くもってないらしい。
もう見慣れきった里をぷらぷら歩いている。通りすがりの子供が、ほかげさまだ!そうはしゃぎながら彼に向って手を振っている。
嬉しそうに手をブンブン振りかえすナルトに呆れた笑みが零れるが、それと同時に妙な切なさが胸を襲う。
―――凄い人になっちゃったんだなあ…。

足を弾ませて、子供は可愛いなあ〜と笑っている。
私は歩みを止めた。るんるんと先に行ってしまうが、ちょっとしてこちらを振り返る。どーした?心配そうな声で尋ねてきた。

「火影様にお願いがあるんです。手を繋いでくれませんか?」

出来る限り真剣な声で、そう言った。
この里できっと一番尊敬され愛される人間と並んで歩くことが出来るなんて、あまりに幸せなことで、そして、今日は私の誕生日だから、もう少しくらい、贅沢をしてもいいだろう。
彼は驚いたような表情でまばたきをして、そして照れ臭そうに笑って手を差し出した。視線の先に、太陽の光が差し込んで、眩しい。
暖かな手のひらから伝わってくる鼓動が優しくて、胸が張り裂けそうだ。彼の隣にいられることは、本当に幸せだ。

「…変わらないでいてくれるから、いいのよ」
「へへ」
「私の傍にいてくれて、ありがとう」


Happy Birthday to Sakura!
sunx へそ




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