小さいティーダと妖精ユウナ




島は静まり返っていた。奥ゆかしく黒い空そのままを映した海。波の音は揺らいでいた。常識から考えれば、子供は寝ている時間だった。しかしユウナは耳をすませた。どこからか、ボールが弾むような音が聞こえるのだ。深夜こっそり、住人達のお宝を頂いちゃおう!なんて考えでやってきた島だったが。興味はそちらへとあっさり移動した。
小さな崖から顔を出し、ひっそりと音がする方を眺める。暗さに慣れた目に映ったのは、恐らく黄色い髪であろう少年が黄色いボールを蹴ったり投げたり頭で受け止めたり、とにかく一人で遊んでいた。

「ねえキミ。こんな夜なのに、どうして遊んでるの」
「へっ?うわぁっ」

そんなに驚かなくても、失礼じゃないか。私だってとっても驚いたんだ。とユウナはぷかぷかと浮かびながら、オーバーに手を上げて驚く素振りをする少年を指差した。少年は色々と聞きたそうだったが、それはこっちも同じだった。先程の質問をもう一度投げかけてみる。目をぱちくりとさせて、ふっと我に返ったのか、足元に落ちて転がるボールを拾い上げて、ユウナへと付きだした。

「オレはティーダ。変な時間に寝ちまって、起きちゃったッスよ。家の中でじっとしてるのって退屈だから、一人で練習してたッス。」
「外への恐怖心ゼロなんだね」
「へっへ。…ところで君は?なんで飛んでるッスか?羽?羽生えてる?」
「わあ」

あまり褒めたつもりはなかったけれど、そんな余計な事は考えていないというように、ティーダは照れ臭そうに笑った。そして、自分の話題が一通り終わった途端に、ティーダは砂浜を蹴り飛ばすような勢いで、ユウナの周りをくるくると回ってみせた。背中の羽を指差して、ひたすら驚きと感動の声を上げている。

「すげー」
「ふふふ」
「妖精って、ボール持てるの?」
「持てます」

唐突な質問に、思わずずっこけそうになった。幽霊と妖精をごっちゃにしているのではないか、吹き出しそうになりながら、ユウナは彼の手から青と白の色彩がうっすらと浮かぶボールを奪い取って見せる。

「うわー取られた」
「隙見せちゃあ、駄目っスよ」

鼻を高くして、ティーダの喋り方を真似して見せた。ぽかんとしながらも、笑って、意地っ張りな彼の情熱に火を付けてしまったのか、暗闇の中でボールの奪い合いが始まる。楽しさに胸が踊っていた。

「ユウナー!」
「何してるんだ…」

遠くから自分を呼ぶ声が聞こえる。しまったと思いながら振り向くと、リュックとパインが岩陰からこちらを見ていた。腕を組んで仁王立ちするパインの呆れた声に思わず苦笑いが零れる。ティーダを見ると、また妖精!?と目を輝かせていた。

「また、遊ぼうね」
「えっ行っちゃうっスか?」
「楽しかったから、時間あっという間に過ぎちゃった」

「うん、またな、ユウナ!」

羽をパタパタと動かして、小さく手を振った。別にいつでも会うことなんて出来るというのに、言葉に出来ない感情が心を覆う。背を向け、二人の元へ戻る途中、自分の名を呼ぶ声が太陽のように暖かくて。あなたの光に誘われてここまで辿り着いてしまったのかもしれない、なんて。だけど今度はあなたの笑った顔も見たいから、明るいときに。寂しさを期待に変えてユウナは目を細めて笑った。


sunx ごめんねママ
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