こっちが先です。キャラ崩壊注意。
あそこにおわすはわたくしの罪ともいえるお方



女性が拳を振るうなんて有り得ない。
世の中なにが常識か何て分かりっこないが、何にせよ、まあ暴力なんて使わないが一番に決まっている。それぐらい私にだって分かる。
そして、また、自分で言うのもなんだが、私は力があった。それも、物凄い馬鹿力だった。
昨晩女性をナメるなと語りはした通り、男性だって易々とボコボコに出来る。
その某紙クズ男には、誰にやられたかはトップシークレットですよ。と素晴らしい笑顔で念押ししたから、学校で噂の怪力女という不名誉なあだ名がつくことはなかった。
そりゃあ自分だってしとやかに女性らしく生きたいので、この無駄に有り余る力を、もう使わない事に決めていた。
決めていたのは、まあ、ごく最近の話だが…。

「イ、イ、イ、イヤ――――――ッ!」
「ぶぐぉぉっ」

早々に、使ってしまった、というか、現在進行形で使っている。
朝っぱらから、声にならない声をあげながら、目の前にいる男性を、タコ殴りにしている。
な、なんだ一体。
目を覚ましたら、目の前に知らない金髪がいたのだ。早々に脳裏をよぎる不埒な考えが、爆発した。とりあえず、ひたすら殴りに殴って、私は逃げた。
下の階に降りて、顔を洗った。いつに増して酷い寝癖を必死に整えて、着替えた。食パンを焼いて、食べている。

(ああ、これは朝だ。なんて普通の朝、よかった。)

「オイーッ!いきなり殴る事ねーじゃねーかッ!」
「ギャ――――――ッ!」
「あっつううううううううう!?」

後ろからさっきの金髪が大きな声をあげてドタドタとやってきた。私は驚きのあまりドン引きされそうな悲鳴をあげながらトーストを放り投げた。(正確には投げ付けた。)
見知らぬ金髪男性の顔面に直撃した。ベチャリと落ちて、真っ赤に跡が残った。私はまた逃げた。
眉をひん曲げながら追いかけてくる。何故私はこの家で鬼ごっこをしているのか、頭が良いのは自慢だったはずだが、今の自分にその問いを見つける余裕なんてなかった。
そしていつの間にか逃げ道もなくなり、恐怖で足が震えて、もつれて転んで、追いつめられた。

「ハァァ、追いつめたってばよ」
「な、な、なんなの、なんなのアンタ!それ以上近付かないで!一歩でも近付いたら蹴り飛ばすわよ!ぐちゃぐちゃに潰すわよ!」
「ヒィ!な、何を!?つーかソレ、蹴り飛ばすで済んでねえってばよ!?」
「うるさい!学校あるのよ!早く答えなさい!」
「うぅ…なんだってばよ…地球人って、こんな怖ぇの…?聞いてたのと違ぇぞ…」
「は、や、く!」
「ハ、ハイ!宇宙人、宇宙人ですってばよ!」

(は?)

ウチュージン。今彼はウチュージンと言ったか。
宇宙人、地球外生命のうち知性を持つものの総称。(ウィキペディアより参照。)
生物が存在する星が無限に近い星の中でこの地球だけのハズがないし、他の星から見れば私たちも宇宙人そのものなので、存在を否定するつもりなど毛頭ないが、今ここで目の前に宇宙人が存在する可能性も、ない、さらさら、有るわけがない!
ごきりごきりと拳を鳴らした。ビビりのへっぽこヤリチンのくせにワケの分からない事を抜かして、殴られに来ている。相当なマゾと見た。

「ナメんじゃないわよ…」
「ナ、ナ、ナ、ナメてねーよぉ!本当だって!」
「宇宙人がベッドの中で目を醒ますか!」
「さ、さ、醒ます!長旅で疲れてたんだってばよ!マジ!眠かったの!つーか俺、昨日ねーちゃんに"おやすみ〜"って言ったじゃん!ねーちゃんもボソボソ"おやすみなさい"って、言ってたじゃん!」
「…」

(あの声、夢の中じゃなかったの…。)

「いきなりヒトの家でおやすみとか言ってんじゃないわよ!」
「あーもー駄目だこのねーちゃん聞く耳ゼロだってばよ!」

目の前の金髪が、その金髪を抱えて嘆く様子に、そうしたいのはこっちの方だ!と内なる自分が叫ぶ。
警察だ、警察に突き出そう。不審者が勝手に家の中で、しかも、なんか頭のおかしい事を言っている。そうだ、そうしよう。ああ、電話、電話はどこだっけ。…あった!隙を縫う様にその場を離れ、受話器を取った。つもりだが、どうなっているのか、取れない。

「な、なにこれ、お、重い!」
「いーから落ち着けって!」
「アンタ何したの!?」
「あまりに人の話聞かねえからちょっと動かねえようにしてるだけだってばよ!」
「してるだけじゃないわよ!何してんのよ!止めなさいよ!」
「止めねえ!」
「止めなさい!」
「止めない!」
「止めろ!」
「と、止めない!」
「止、め、ろ!」
「と、と、と…とめ…」

(ゼーハー。)

金髪が何故か涙目になっている。だからそうしたいのはこっちの方だ。
ああ、駄目だ、話が進まない。落ち着こう、深呼吸だ。

「アンタ、名前は…」
「へ」
「名前!」
「ナ、ナルト!うずまきナルト!」
「ここに何しに来たの!」
「オ、オッス!地球侵略です!」
「バカじゃないの!?」
「バ、バカじゃねーってばよ!マジだってばよ!」

(だめだ落ち着けるはずがない。)

一向に進まない会話に時間を取られ、もう時計の針は遅刻寸前の位置を指していた。

「ああ、もう、学校間に合わないじゃない!とりあえず、アンタはぐるぐる巻きにして動けないようにする!それで、帰ってきてから即通報!」
「ええええ!ツーホーってちょっと待っぐほぉっ!」

腹部に深く一撃を決めたら、あっさり気を失った。フン、カスめ…。と内なる自分は言った。
近くにあった新聞紙を縛るビニール紐をありったけ引っ張り出して、ぐるぐるに巻いた。これなら動けまいとそのまま飛び出すように鞄を持って自転車に跨った。
外に出れば世界は普通だった。昨日の悪天候は足跡を残さず去ったらしい。私は本当に安心してペダルを思い切り漕いだ。

(学校に行って、今日も勉強を頑張って、帰れば家まで元通り!宇宙人なんていない!そう、疲れて幻覚でも見てたのよ!)

もう既に体力は限界だったが、それすらなかったことにした。

誰もいない家に帰ってきた。誰もいないけど、るんるんと足は弾む。誰もいないけど、ただいまーっと言ってみた。
オカエリーと今にも死にそうな返事が返ってきた。現実は現実だった。非現実は現実だった。そのまま閉めたら扉がヒビだらけになった。しかも死にそうなわりに縄から抜けている。

「通報!」
「やめてえええええええ!なんでもするから!ホント!家事でもなんでもします!」

誰が望んだのかそんな日常。クーリングオフは可能ですか、不可能ですかそうですか。ちょーっと欲を出したら、いきなり家に宇宙人(そもそも宇宙人って。ふふふ、無理がある。)を送りつけられるとか、おかしな話だ。神様、私何か悪いことしましたか。
嗚呼、目眩がやまない。今度こそ、目覚めるのか。そう、そうなのね!ならば喜んで気を失うわ!
奇妙で忙しい、悪い夢から解放されている事を願って(宇宙人が来るんだからこの程度の願い、造作もないわよね!)、私は目を閉じた。

次目を覚ましたらそこはベッドで、彼は心配そうな顔をしておかゆを私に差し出した。まあ器用な事!地球を侵略しに来たとは思えない!頂いたら、とても美味しかった。
私は泣いた。それはとてもしょっぱかった。


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