学パロ、若干エイケイ
傘下の末路




ケイトが、窓の外を見て「うげっ」とそんな声をあげたのは、一切の明かりを遮断した雲に、雨の予感を感じさせたからだろう。
あたし傘ないの、エイト、後ろ乗せてって!前の席に座るエイトの肩を両手でぽんぽん(いや、ぼすぼす、ぐらいかな)と叩き、そう頼んでいる。エイトは自転車通学だった。
エイトは何言ってんだ。とでも言いたげに、今日はまだしなきゃいけない事がある、無理だ。と断っていたが、「知らないわよ、あたしは今日早く帰んなきゃいけないの!」
エイトは恐らく雨が収まるのを待つつもりだったのだろうが、そんな事は関係なかったらしい、ジャイアニズムを炸裂させて、ケイトはそう言っていた。
僕はそんなおかしな会話を、遠くぼんやりと聞きながら、朝テレビで天気予報士が今日はこの時間、強い雨が降るでしょうと言っていたことを思い出していた。
そんな日に自転車で来るのもどうかと思うが、天気予報を見ている暇などなかったとか、そうでもしないと間に合わないからとか、色々あるのかもしれない。

案の定、雨は降りだした。最初こそ梅雨らしい、しとしととしたものだったが、堰を切ったように、ざあああと降り出すのにはそう時間もかからなかった。
丁度クラサメにさよならを告げる頃、降り出したので、運が悪い。どうでもいい話だが、僕の髪は湿気に弱い。

ちらりと動いた目の先でクイーンは、てきぱきと帰り支度をして、立ち上がった。それでは、と眼鏡を直しながら誰に言うでもなく呟いて、細身の傘を持って教室から去っていく。
僕も立ち上がって、追うようにその場を離れた。

「クイーン」
「エース、どうかなさいました?」
「いや、どうせなら一緒に帰ろうかな、って」
「そうですか、わたくしで良ければ」
「うん」

傘で跳ねる雨粒はばらばら、ぼたぼたと、それ以外にも、ざあざあ、ばちゃばちゃ、とてもうるさいので、少し大きめに喋らなきゃ声も届かない。
他愛もない話を続けて、水だらけのアスファルトを進んでいくと、僕たちの横を自転車が去っていく。荷台に座るケイトの悲鳴がこちらまで聞こえた。
クイーンは唖然として、「こ、こんな雨の日に、二人乗りだなんて…」いけません、と小さく続けたが、絶句にまみれて叱る声も出なかったらしい。そもそもとんでもないスピードだったので、届くこともなかった。
ケイトの用事は、この雨の中二人乗りをして、水浸しになってまでする事なのだろうか、とても気になったが、とりあえず事故が起きないよう願う。
クイーンは頭を抱えて、ぶつぶつと苦言を漏らしていた。傘がふらふらと動いて、顔に雨がかかっている、僕は慌てて支えた。
ああ、すみません。まったく、ケイトも、エイトも…。心配で仕方がない親のように、続くそれに、僕もうん、うん、と頷いた。

道の中央で、立ち往生していると、雨のノイズに紛れて僕たちを呼ぶ声が近付いてくる。そちらに目を向けると、ナインが走ってきていた。僕は驚いた。
「おー!傘、入れてくれよコラァ!」コラァ、と言いたいのはこっちだ。って多分クイーンは思ってる。慌てて自分の傘を傾けて、入れてあげた。もうびしょ濡れなので、大して変わらない気もするが。

「全く、エイトも、ケイトも、ナインも…!このような日にどうして傘を持ち歩かないのですか!?」
「ヘーキかと思ってよお、ここまで降るなんて思ってなかったぜ」
「ふ」

何の根拠があってヘーキなんだ、僕は笑ってしまった。

「ナイン、僕の傘を貸すよ」
「へ」
「ほら」
「え、いーのかよ」
「ああ」
「マジかよ!サンキューな」
「え、し、しかし…それではエースが濡れて…」
「僕は、こっちに入れてもらうよ」

ナインの手に自分の傘を握らせて、さっとクイーンの傘の中へと滑り込む。驚いて、眼鏡の下で瞬きを何度かしたが、すぐに僕の分の場所を開けてくれた。

「ありがとう」
「ええ、よかったのですか?」
「いいさ」

こちらの方が随分気分がいい。
ナインがクイーンの事をどう思っているか、とか考えるととても自分が嫌な奴な気がしてきたけれど「エースはいい奴だなあ、コラァ」傘を回しながらそう言って嬉しそうに、ばしゃばしゃと道を歩くナインの姿がツボに入り、しばらく笑いが止まらず、参った。


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