フラジール・アウトサイダー

To Aerith.




木で造られた扉は青く塗装されていて、所々色が禿げて小さくささくれていた。金メッキを纏ったノブを握って中へ入ると、チリンと客を知らせる鐘の音が小さく響いた。少し埃っぽい空気が鼻を掠める。
偶然見つけた奥まった道にひっそり佇む小さな店だったため人気はほとんどなかったが、レジに立つ女性だけが、こちらをじっと見ていた。丸く見開かれた目と自分のそれが合い沈黙が走る。

「あの!その制服着てるってことは、もしかしてスコールと一緒の学校ですか?」
「う、わ」

先程までレジにいたのにいつ移動したんだ。それに突然知らぬ人間のマフラーを思い切り掴んでみせるやつがこの世にいるとは思ってもいなかった。
締まりこそしなかったが、思い切り仰け反ってバランスを崩す。よた、と足がもたついて棚にぶつかりそうになった。

「…何なんだ、あんた」
「あはは…ご、ごめんなさい」

状況が掴めないという事と、非常識さに苛立った声をぶつけると、笑ってごまかし始める。
その店から出てしまおうかと思ったが買うものが買うものだけに、極力人目に付かない所が良かったので仕方がない、渋々他の棚へと移動する。しかし視線は背をずっと追いかけてきた。
置物を手に取ると、小さく「それにしちゃうんだ…」やら「ええ…」やら、不満気な声が聞こえてきて、クラウドは眉間に皺を寄せた。

「…うるさい」
「えっ聞こえてた?」
「何なんだ、本当に」
「ごめんなさい、わ、悪気はないよ!プレゼント買いに来たんでしょう?」

よく喋る店員は両手の平をこちらに向けて怒りを制止しようとする。
謝る気ゼロにしか聞こえないがそんなことよりプレゼントを買いに来たという事実をズバリ言い当てられ深くため息をつきたくなったが、冷静に考えるとこの様なリリカルな店に自分のものを買いに来ていたとしたらまさしく気色が悪い。

「そんなことより!ねえ?スコールと一緒の学校だよね?」
「あんたさっきからそればかりだな…」
「知ってるよね?同い年だよね?仲良い?」
「話したことない」
「ええー」

いつの間にか店員としての敬語すら無くなってしまっているこの不躾な女は一体何なんだ。
相手にすると面倒くさそうだと思ったが、質問がマシンガンのように飛んでくるため無視すると尚更タチが悪いような気もした。適当に返事を返す。オーバーなリアクションが耳を突き刺した。

「何故この店はやたら羽の硝子細工が多いんだ」
「私が羽物が好きだから」
「あんたバイトじゃないのか」
「そうだよ、だからここで働いてるの」
「それはあんたが好きだからじゃなくて仕入れている人の好みだろう」
「あ、そっか」
「…」
「これとか、凄くない?私の一番のお気に入り」

呆れて声も出ない所を見事なまでにさっさと話をすり替えてみせた。
楽しそうに声を弾ませて手に取った置物は、ライオンに羽が生えた透明のペーパーウェイトだった。今にも飛んでいきそうな様でよく出来ているとは思ったが、何故だか見ていると無性に腹がムカムカする。
「絶対嫌だ」と言い捨てると大きな驚愕の声が返ってきた。意図的かは知らないが、自己投影が硝子越しに存分に揺らめいている。思わず白けた顔になってしまったが、構いやしない。

「これでいい」
「ユニコーン?」

うっかり落したら真っ先に角が逝かれるだろう。ただそんな事を気にしていたら結局ただの丸い石ころになってしまうので、気にしない事にした。
この選択にはご満悦だったのか、うんうんと自分の事のように微笑んで頷いている。ラッピングするね、と大切そうに石を持ってレジへと駆け足で戻っていく。

「はい、どうぞ」
「ああ」
「それと、これあげる」
「?」

綺麗に包まれた袋を受け取り代金を支払う。一緒に受け取ったものはアルミに包まれた丸いチョコレートだった。

「お兄さんがちゃーんと渡せますように、おまじない付き!」
「あまり好きではないんだがな…」
「そんな贅沢な事言ってると本命も貰えなくなっちゃうよ」
「…」
「なんてね。あ、次は彼女さん連れてきてね。それと、スコールに会ったらリノアさんがどうぞ宜しくって言っておいて」
「話すつもりもないし此処にも二度と来るつもりはないな…」
「もう、ひっどいなあ」

吐き捨てるように言い残して、店から出た。「フラれちゃえー!」なんてとんでもない叫びが聞こえてきたので「…ないな」と言い返した、自分の中で。開き直って自信過剰になるのもたまには悪くない、本人の前以外では。
フンと鼻を鳴らして握られたアルミを開いた。口の中へ放り込むと酷い甘さに頭痛がする。しかし不意に脳裏を横切った花の景色、佇むのはエアリスの後ろ姿だった。ああ、あの店意外と、侮れないかもしれない。


 
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