(一応)スコールと魔女のリノア




細い足が、薄く氷の張ったプールへと沈んでいく。呆れながら、スコールはその場を見ていた。
その日立ち寄ったホテルには、小さなプールがついていた。贅沢!なんて感嘆の声を上げてそばに寄るったリノアは、顔を乗り出して水辺を覗き込んだ。今にもパキパキと音を立てそうな透き通る塊が好き勝手にぷかぷかと浮かんでいた。氷が張るのが見てわかる通り、季節は冬だった。冬だったというのに、いそいそと靴を脱ぎ始めたリノアに、スコールはぎょっとした。入るつもりなのか?馬鹿な事はやめろと肩を掴んでも、足だけだよ。と聞く耳持とうとしない。

「冷たい」
「当たり前だ」
「いたたた、冷たすぎて痺れる」
「だから」

非現実的な行動を取られると、対応に困る。結局傍観だ。きゃっきゃとはしゃぐリノアの言葉に水をさすことしか出来やしない。女性は足を冷やしてはいけない。と誰かが言っていた事を思い出した。しかし目の前にいる彼女は自ら冷やすどころか凍りつかせようとしているのか。
ハッと我に返ると彼女の笑顔とその行為が恐ろしく自滅的なものに見えて、早く出ろと思わず声を荒げた。ぶぅ、と唇を突き出して不満そうにこちらに振り向いたリノアは、よいしょと冷えて上手く扱えない足をプールサイドへと広げた。

「心配しいだね」
「見てて気が気じゃない」
「優しいんだね」
「そんな馬鹿げたこと目の前でされてはこっちもたまったもんじゃないんだ」

そそくさに洗面台にあったバスタオルを持って、その場に戻ってきたスコールは、水に濡れてかたかたと震える彼女の足を拭い始めた。

「ホントは、飛び込んじゃおっかな、って」

まともじゃいられなくなりそうな声で、彼女は笑った。

「どうして泣きそうなの?」

眉間の辺りがびりびりとしていう事を聞かない。表情が上手くコントロールできず、スコールは俯いた。
風が突き刺すみたいにびゅうびゅう吹き抜けて、寒かった。喉の奥まで支配する冷たい空気は頭を空にさせる。目の縁にじわりと生温かさが滲むのが分かる。

「…飛び込んでも俺が引っ張り上げる」
「ホントかなあ」

大人しく足を拭かれていたリノアは、ありがとうと小さく笑って立ち上がった。
どうして泣きそうなの?そう問われどきりとした心臓を見られたくなかった。早く部屋へ戻るぞ、気が狂いそうなほどの冷たさに頭がおかしくなってしまったのか。
何故そんなに自らを傷付けたがるのか、正しさの行方が見当たらない。ただただ彼女の手は水面に浮かぶ氷よりも、ずっと冷たいのだ。


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