*暗め *土+木


「とうとう、援助がなくなるらしい」
 そうぽつりと告げたグロットの言葉に、本を読んでいたアルボルが顔を上げた。いつも無表情の彼が、その古木の瞳に焦りと不安を宿しているのを見て、グロットは申し訳なさそうに後ろ髪をがしがしと引っ掻いた。
「国の方に援助を申し立てているらしいが、正直このご時世だ。ハッキリ言って絶望的だし、その申し立てが受理されるにしてもされないにしても数ヵ月の間が開くとよ」
「その数ヵ月はどうなる?」
「院長がでる限り補ってくれる。足りない分は内職だの外に働きにいくしかないな。俺も来月から働き口が見つかってるし協力は惜しまねぇつもりだ」
 施設の維持費と約三十人の子供たちを養っていくためには莫大な費用が掛かる。もともとこの孤児院の為に働こうとしていたグロットは協力することに異存はない。
「……それで国が受理しなかったら?」
「みんなバラバラに他の施設に引き取られるか、運が良ければ里親が見つかるだろ。だけど、どいつもこいつも施設を盥回しにされてきた奴らばかりだ。簡単にはいかねぇ。特に、俺達みてぇなハーフは難しい」
 少なくとも、皆同じ施設に引き取られる可能性は皆無だろう。グロットは一人暮らしを始めることは可能だが、他はそうもいかない。
「……俺も働いた方がいいのか」
「馬鹿いえ。高校生活が後半年残ってるんだからお前は勉学に集中しろって。もしかしたら大学の奨学金、もらえるかもしれないんだろ?」
「そうだが……」
 アルボルだけじゃない。頭がいいアルボルやメルキューレ、レーベ、そしてブリッツは奨学金で高校まで進学できた。もし四人とも大学まで行くことが出来たのなら、その伝手で新しい援助先が見つかるかもしれない。それほど大学に行けるということは名誉なことなのだ。
「ラーナには内職に徹してもらうとして、なんとかなんだろ」
「ずいぶん楽観的だな」
「そうでも思わないとやってられねぇさ」
 そう笑ったグロットの顔には疲れが滲み出ていた。残っている孤児の中で、ここでの暮らしが最も長いグロットは一番辛いのだろう。
 沈黙が下りた。開け放たれた図書室の窓からは相変わらず賑やかな子供たちの声が聞こえる。日常の一部になっているこの賑やかさが消えていくのか。そう考えるだけで、二人の足元がぐらついた。何気なく窓の外へ視線を向けると、庭で思い思いに遊ぶ子供や、日向ぼっこに興じている子供たちが一望できる。
「皆辛い思いして、やっと笑えるようになったってのによ」
「ロット」
「残酷だよなぁ」
 俺たちが拝んでいる神とやらは。そうぼやいたグロットの声は掠れていた。


神は人を救いはしない
(せめて皆が笑いあえる世界がほしい)
(きっと叶えてはくれないだろうけど)


誰よりも孤児院に愛着があるグロットと、それを近くでずっと見てきたアルボル。
これはアグニたちがデジタルワールドへ旅立つ一ヵ月前の話。
20120306

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