*ほのぼの *木(+)鋼


「友達とはどう表現すればいい?」
 いつものように施設内の図書室で本を読んでいたら、メルからそんな質問が飛んできた。正直、驚いた。
「……今度は誰に何を言われた?」
 質問に質問で返すのは失礼だとわかっている。しかし、聞かずにはいられない。
 メルは人付き合いが苦手だ。特定の狭い範囲でしか交流を持たない彼の口から友達という単語出たことだけでも吃驚だ。
「アグニとブリッツが友達について話していた。あいつらが俺も友達だというから」
 淡々とした口調は相変わらずだが、その目にはわずかに戸惑いがあった。
 メルはここに来るまで友達がいなかった。だから自分を友達だという彼らに、どう返せばいいのかわからなかったのだろうな。とことん感情表現に不器用だ。
 それよりも、何故そういうことを俺に尋ねてくるのかわからない。
「わからないことがあったらアルバに聞くのが早い」
「俺は辞典じゃない」
 メルといいグロットたちといい……お前たちは俺をなんだと思っているんだ。
だいたい、友達だと思われているなら、お前が無理にそれを返そうとする必要もないだろう。それを伝えてもメルは納得がいかないようだ。
「与えられたものは返したい。言葉では上手く伝えられないから」
 そう思うのならそのままでいてもいいと思うのだが……。そういった所でメルが納得するとも思えないな。そもそも友達に対する行動的な表現方法なんて、急に言われてもあまり思いつくものではない。いや、ない訳ではないが。
「……オーストリアの劇作家、グリルパルツァーを知ってるか?」
 問うとメルは首を傾げた。知らないのだろう。
「グリルパルツァーの格言の中にキスにまつわるものがある」
「キス?」
「額の上へするキスは友情を示すらしい」
 悪いが、俺の知識ではこのぐらいのことしか思い浮かばない。メルは口元に手を当てて何かを考えている。俺は先程まで読んでいた本に視線を戻して、続きの文を探す。
 イスを引いて立ち上がる音がした。メルは納得したのだろうか? そう思って視線を上げると、視界を銀色の髪が覆う。
 それがメルのものだと気付く前に、額に柔らかな感触があった。
「メル?」
 それはすぐに離れた。目の前には相変わらず無表情なままの端正な顔がある。揺れる銀髪が肌にあたってくすぐったい。
「教えてくれて、ありがとう」
 そう言うなり、メルは図書室を出て行った。ぱたぱたと遠ざかっていく足音を聞きながら、額に触れる。

「まさかアグニたちにも実践するつもりか……?」

 程なくして遠くから複数の騒ぎ声が届く。
それを聞いて此処はすぐに騒がしくなるだろうなと思い、俺は本を閉じて立ち上がった。





額なら友情
(友達だと思われていたのが、普通に嬉しい)


この後、アルバが逃げてからレーベさんが図書室に乗り込んできます。
20120226

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