*ほのぼの *雷→風


 外に植えられている花の香りだろうか?
 少し冷たい強い風が、仄かな甘い香りとともに窓から入り込んできた。窓際に座っているフェアリの長い髪が大きく靡き、窓から入り込む陽光をきらきらと反射している。綺麗だと思った。
「……どうしたの?」
 目の前で揺れるそれを一房だけ右手で捕まえると、くるりとエメラルドの瞳がこちらに向いて、俺の心臓が大きく跳ねた。
「い、いや……綺麗だな、と思って」
 だんだんと尻すぼみになっていく声が我ながら情けない。手に取った手触りのいい菫色を離すこともできずに、視線だけを彷徨わせる。そんな俺の様子がおかしかったのか、フェアリは小さく笑うと「ありがとう」とだけ言ってまた窓の外へ視線を戻す。
 それを少し残念だと思う気持ちと、このままだと心臓が持たなかったという安堵がぐるぐると混ざり合う。心臓はまだうるさかった。
 何も言われなかったということは、触れていていいのだろうか。
 目線を落として、手の中の絹糸のようなそれを親指の腹で撫でる。身嗜み云々に疎い俺でも、フェアリの髪質がとてもいいことはわかった。
(こっち、向かないよな)
 外からはアグニやグロットが子供たちと遊んでいる賑やかな声が聞こえる。
 彼女はいったい誰を見ているんだろう。その視線の意味に、俺がフェアリを見る時と同じ感情が含まれていないといい。それは俗に言う嫉妬という奴で、心の中で嘲笑した。
 ふと窓の外に視線を向けると、モンシロチョウが視界に入る。空を飛ぶその姿が、何故かフェアリのようにも思えた。それは好きだからこその贔屓目かもしれないけど。
(こっちを見るなよ)
 右手を動かして、静かにその髪に口づけた。彼女が使っているシャンプーの香りが鼻を掠める。それは外の花の香りとよく似ていて、少しばかり眩暈がした。
 フェアリは相変わらずあちらを向いたまま。彼女が見ていないから出来ることだ。だから俺はヘタレだの言われるんだろうな。
 手から菫色が滑り落ちて、ふわりと風に乗った。
 冷たい風は、熱を持った頬を嫌に強調させてくる。

 やっぱり、俺はフェアリのことが好きで仕方ない。



髪なら思慕
(バ、バレてない……よな?)
(気づかれてないとでも思っているのかしら?)



ヘタレなブリッツとフェアリ姉さん。
20120226

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