*シリアスほのぼの *炎光


 月のように冷たくて、儚くて、今にも消えてしまいそうな雰囲気を持っていた。
 その頑なに世界を拒む瞳が、幼いながらにその鋭い美貌を際立たせている。アグニはそんな目をした、自分と同い年であるその少年に見惚れた。
 彼は今日からこの孤児院に入り、アグニと同室になる少年。アグニは今まで人数の都合で一人部屋だったので、彼が来るのを楽しみにしていたのだ。
「俺の従弟なんだ。名前はヴォルフ」
「ヴォルフか!じゃあヴォルでいいよな!オレはアグニ!よろしくな!」
 レーベの言葉に、アグニは笑顔でヴォルに手を差し伸べる。ヴォルは頭一つ分高いレーベの背中に隠れるように引っ付いて離れようとはしない。
「ヴォルフ?」
 レーベに促されても、ヴォルは動かない。怖いのだろうか? レーベが困ったように苦笑する。
「ヴォルフは人見知りだからな……」
 本来ならば、従兄のレーベがヴォルの同室になるのが好ましいのだろう。しかしレーベはレーベで部屋を代われない事情がある。
「なぁ、ヴォル」
 見かねたアグニが、レーベの背に隠れるヴォルを除き込む。ヴォルは突然名を呼ばれて驚いたのか、ますます強くレーベにしがみついた。
 その体はアグニにもわかるほど震えている。ヴォルは怯えていた。ヴォルがどういった経緯でここに来たのか、アグニはまだ知らない。だが、酷い目にあってきたと言うのは何となくわかっていた。
「ヴォル」
 できうる限り優しい声音で、アグニはヴォルを呼んだ。
「ヴォル」
 アグニは笑顔のまま、ヴォルの名を繰り返し音に出す。何度も何度も。おずおずと逸らされていたヴォルの瞳が、アグニに向く。
「ヴォル」
 屈託のないアグニの笑顔にヴォルの警戒心が解かれたのか、レーベにしがみつく手が弛んだ。
「ヴォル!」
「ひっ」
 その隙を狙って、アグニはヴォルの華奢な体に飛び付く。上擦った悲鳴をあげてる彼にお構いなしに、アグニは震えるその背中をぽんぽんと優しく叩いた。
「だいじょうぶ」
 なにも怖いものはない。大丈夫。ヴォルを傷付けるものはここにはないから。
 呪文のように、アグニはヴォルの耳元で言い聞かせる。
「……だれもおれをたたかない?」
「たたかないよ」
「水におさえつけたりしない?」
「しないよ」
「暗いところに閉じ込めたりしない?」
「そんなことするもんか」
 ずいぶんと酷い目にあってきたのだろう。震える声が鼓膜をうつ。可哀想に。アグニは抱き締める力を少し強くした。
「ほんと……?」
「あぁ。もしいたとしても、オレが守ってやるから」
 じんわりとヴォルの銀色が揺らいだ。「じゃあ……」と嗚咽を噛み殺しつつヴォルは問う。
「おれを、一人にしない?」
 すがるように、アグニの肩に額を押し付けた。淡く柔らかな金髪が、アグニの首筋を擽る。
「しないよ。やくそくする」
 微かに聞こえてきた嗚咽。肩がじんわりと湿ってきたのを感じる。その雰囲気が儚くて、今にも消えてしまいそうで、アグニは腕の中の存在をもっと強く抱き締めた。

「ずっとそばにいる。おれがヴォルを守るから」

 この理不尽で不条理で残酷な世界で、君が笑っていられるように。


月を腕の中に閉じ込めた
(月みたいな君を守りたかった)
(太陽みたいなお前にすがった)



アグニとヴォルの出会いの話。アグニはヴォルに一目惚れ。レーベ兄さんみごとに空気。
20120222

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