身体の震えは収まろうとしない。怖くてたまらなかった。
いつか、殴られるんじゃないか。怒鳴られるんじゃないか。そんな不安で思考が覆い尽くされてしまう。
死んでしまえばいいのにと、満月自身を生み出した親に言われた。一番愛が欲しかった人に言われた。殺されると思ったことも一度ではなかった。
今は、もう。たった一人だけ残された。死ねばいいと言われた自分だけが生き残った。そして今、平和に、幸せに暮らそうとしている。
それは、許されることなのか、満月にはわからなかった。
「大丈夫」
思考の闇に沈みこもうとしていたとき、耳元で低い声が聞こえた。大きな手が、満月の背中をゆっくりと撫でていた。
「もう、怖い思いはしなくていい」
ぽろ、と涙が流れた。箍が外れたようにそれは止まらなくなり、満月は恭平の肩にしがみつくようにして、泣いた。
「ひっ……ぅ、っく、ぅ……」
「……また、思い出した?」
「ん……」
「大丈夫。俺がいるだろ」
一緒に背負うと言ってくれたのは、恭平だけだった。満月の過去を知っているのも、ぼろぼろだった時期に一緒にいてくれたのも、今隣にいてくれるのも、恭平だけだった。
ほう、と息ができるようになって、満月は細く長い息を吐いた。誰よりも大切な人が、今一番傍にいる。その事実だけあれば十分だった。
「きょ、へ……」
「ん」
「……どこも、いかないで……絶対、ひとりに、しないで」
「するわけないだろ。したこと、あったか?」
今は何よりも、この大切な人がいなくなることを恐れている。
人を信じるのは怖かった。それでも、大切な人の言葉だから、信じたい。
幸せになっていいのかと苦脳する満月に、「幸せにする」と言い、「幸せになっていい」と許し、言葉通りに安らぎと幸せをくれた。だから、恭平は嘘を吐かない。
「信じる」
震えは止まった。涙は、止まらない。仕方ないなぁ、というように、恭平がそっと指で拭った。
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