一緒に死んだほうが、良かった?
「満月?」
「っ………」
至近距離で名前を呼ばれ、びくりと肩が竦んだ。咄嗟に振り返ると、幼馴染で教師をしている恭平が心配そうに眉を下げて立っていた。
「ごめん、驚かせたな。声、かけても反応なかったから」
「あ……ごめ、ぼーっとしてた……」
どっ、どっ、と心臓が鳴る。驚いたから、そうではないことは満月自身がよく知ってた。
今にも怒声が聞こえそうだった。記憶の縁のぎりぎりのところまで、それはせり上がっていた。零れそうなくらいいっぱいに、過去の記憶が頭を埋め尽くす。
死ねばいいのに、といったあの時の声は、忘れもしない。
「満月」
じと、と背中に嫌な汗を感じた瞬間だった。右手を掴まれて、またびくりと身体が震えた。
目の前の恭平が、真剣な目をして満月を見つめていた。怖い、と満月は思う。右手を引っ込めようとするけれど、恭平の手は離れようとはしなかった。
手を引かれるままに、そのままに座りこむ。へたり込むようになって、自分の身体に力が入っていないことに今更ながら気付いた。窓から隠れるようになって、外から二人の姿は見えなくなってしまう。
「満月」
真っすぐな声に、恐怖で竦む。目を合わせるのが怖くて、満月は顔を反らした。
かた、と身体が震えだす。違う、と言い聞かせた。目の前にいるのは、自分を脅かす人ではないのだと。それでも脳内に刷り込まれた恐怖は、満月の身体を強張らせた。
視界の端で、恭平が身体を近付けるのがわかった。反射的に身体を離そうとするけれど、背中の壁がそれを許さない。追い込まれるようにして、恭平の身体に包み込まれた。
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