夜の向こう岸 | ナノ


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「おや、ホームルームも終わってしまいましたね」

 日下部満月は水嚢を準備しながら、ぼんやりと時計を見上げた。学校が終わりの時間、これから生徒は部活動に勤しむ。保健医の満月は担任や部活動の顧問をしていないため基本的に仕事は終わりにはなる。
 水嚢をデスクに置き、白衣を翻してカーテンの閉まっているベッドの中を覗いた。中には小柄な生徒が一人、上半身を起こしている。先程よりも良くなった顔色に、微熱程度に下がったようだと胸を撫で下ろす。

「身体はどうですか。そろそろ、保健室を閉めないといけません」
「満月、せんせ、ごめんなさい……」
「どうして謝るんです。寮には帰れそうですか?」
「多分……」

 曖昧な返事に心配になる。頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めた。高校生とは言え、子どもには変わりない。学生寮までは徒歩十五分といったところだが、こういうふわふわした子を見ると心配になる。
 きっともうすぐ、ほら、やってきた。とカーテンを開けて訪問を待った。

「奈津ー」
「高梨、いらっしゃい」
「せんせ、奈津の具合どう?って、起きてる」
「航、」

 やってきた生徒、高梨はベッドに近付き、そのまま腰を下ろした。奈津と呼ばれた生徒の公然の恋人である。男子校のここではそう珍しいものではなく、満月は微笑ましいものを見るように目を細め、奈津の頬を撫でる高梨を見ていた。

「もう保健室閉まるよね?帰ろっか」
「大丈夫ですか」
「大丈夫、大丈夫。奈津一人背負うくらい」

 奈津に比べて、高梨はまだ体格が良い方だった。軽々と広い背中に奈津を背負い、二人分の荷物を持つ。
 



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