「お願いだから、もう、一人で傷つくのはやめてくれ……」
一人で耐えて、一人で忘れようとする。眠れない夜は透を利用しても、朝になれば忘れたように一人で帰ってしまう。
そんな背中を見るのは、もう、こりごりだった。
「お願いだから……」
「……とーる、ちゃ、泣いてるの……?」
「……泣いてねぇよ」
視界がぼやけている感じはあったから、きっと泣いているのだろうと思ったけれど、透は構わず郁の肩から顔を上げた。目が合うと郁は驚いたような顔をするから、構わず触れるだけのキスをした。
「とーるちゃん……?」
何度も、触れるだけのキスをした。舌で唇を舐めて、徐々に割り入って郁の口内を犯した。
「ふ、ぅ、んっ、ぅ」
舌を絡めると、郁は苦しそうにした。抵抗するようにベッドに縫いつけられている手を動かそうとするけれど、透は手首を離そうとはしなかった。
同時に律動を開始すると、ふにゃりと郁は抵抗する力を失った。ようやく唇を離すと、苦しさからか郁はまた涙を流した。郁の手首を離して律動のスピードを速くすると、ぼろぼろと泣きながら、透の首に腕を回した。
「と、るちゃ、とーる、ちゃん……っ」
「ん、なに、っ」
「ごめ、なさい、ごめんなさい、とーるちゃ、」
ぎゅう、と抱き締めてくる腕が強くなる。たまらなくなって、透も華奢な郁の身体を抱き締めた。
「とーるちゃ、たすけて……っ」
こわい、たすけて、わすれたい、とうわ言のように郁は泣いた。
「……うん」
見守るだけの夜はやめよう、と透は決意した。疲れて眠ってしまった郁の寝顔を見ながら、頬に残った涙を拭うだけの夜はもう。
今までの後悔と、これからの決意を乗せて。背負っているものを少しだけでも預けてほしい。一緒に苦しむことはできるから。どうか、一人でもう、泣かないで。
重荷は背負って、愛を捧げよう。涙を止めるように、郁の瞼にキスを落とした。
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