少し前まで寒かったはずなのに、外の冷気を忘れたように、透はしっとりと汗をかいていた。オレンジ色の明かりだけが灯る寝室で、郁の白い裸体がぼんやりと浮かぶ。
「んっ……」
透がぎしりとベッドを揺らすと、郁の細い脚がひくりと上がった。男のくせに綺麗な脚に見とれてキスを落としそうになるが、理性を奮い立たせてやめた。代わりに脚を掴んでいた手を郁の顔の両側に落として身体を密着させると、郁はシーツを掴む手を強くした。
「痛くない?」
「……ない……」
片手の甲で口を押さえながら呼吸の合間に声を漏らす郁を、透はただ上から見つめているだけだった。透に出来るのはそれだけだった。細い身体を揺らして、快楽だけを与えて、眠れる夜を郁に与えるのは透の役目だった。
郁は決して、透に触れようとしなかった。ただシーツを掴み、自分の声が漏れないように口を押さえ、律動に耐えるように目を瞑っていた。その頑なな意思をわかっているから、透も触れることはなかった。
嬌声を上げる唇に、形の整った鼻に、柔らかな頬に、汗で前髪を張りつかせる額に、キスを落としたいと思ったのは一度だけではなかった。けれどそのたびに、透は唇を噛んで律動だけを繰り返した。
作業のような行為。もう何度目かわからない夜を、二人は過ごしてきた。
「ぅ、っ、んっ……ぁっ」
何度も身体を重ねるうちに、郁の声がより高く上がる場所さえわかるようになってしまった。突いても、郁は透にしがみつこうとはしなかった。
せめて、縋ってくれるなら。そう、透は思うことしかできなかった。
「やっ、や、そこ、やぁっ……」
「っ…………」
「とーる、ちゃん……っ」
嫌なら泣き叫べ。嫌なら、しがみついて、爪を立てて。
ひどいことをしているとわかっていた。それでも、同じくらい自分が傷ついているということも透は自覚していた。
郁は身体を震わせて、呪いの言葉を吐く。
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