いつもの朝に | ナノ


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「……具合、悪いって?」

 聞いてみると、また、ぱっと顔が上がった。

「わかるの?」
「……いや、さっき、言ってたの聞こえたから」
「……気のせいだと、思います」

 期待したように顔をあげたのに、そう言って悲しそうに目を背けるから。変な子だなぁとは思ったけれど、それ以上に気になって仕方無くなった。
 この子は、どんな世界を見てるんだろう。

「花と、話が出来るの?」

 小さな花を撫でてみた。俺には花を愛でる趣味はなかったし、種類もそうわからなかった。言ってみて、これ違ったら俺がおかしな人に思われるなぁと気付いた。

「……変だって、思わないの?」

 変だと、言われたことがあるのだろうか。
 この、空を見上げることすら忘れてしまいそうな息苦しい都会の中で、この子はどうやって生きてきたんだろう。こんな小さな雑草の一つにさえ、心を預けて生きるのは、楽なことではないだろうと思った。
 すとん、とめぐむの言っていることを肯定した。この子はきっと、花と話ができるんだろうなと思った。疑う余地はなかった。浄化されていくような心地がした。

「素敵なことだなって、思う」

 素直に言うと、めぐむは驚いたように目を見開いて、次の瞬間嬉しそうに笑った。
 何かが弾けたような気がした。視界が開けたような感覚がする。多分、インスピレーションとか直感とか、こういうことを言うのだろうと思った。
 自分は今まで何をしていたんだろう。何をして生きてきたんだろう。何を生んで、何のために、何を考えて生きてきたんだろう。問いかけた瞬間、答えが一つも出なくてばかばかしくなった。笑っているめぐむの顔を見ていたら、パズルのピースがかちりとはまったように、すべてがあるべき場所に収まった。
 この子と、生きよう。そう思った。

「俺と一緒に、住もうか」

 算段は何もなかった。目の前にいるめぐむが、どこにいる誰なのかもちっともわかっていなかった。それでも俺には、この子は俺と一緒に生きてくれるという確信があった。

「……うん」

 めぐむは一瞬の疑いもなく、どこの誰かもわからない俺からの突然の誘いに、二つ返事でのった。


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