いつもの朝に | ナノ


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 この一軒家は一階しかない。縁側に隣合っている寝室の東側には客間があり、北側には台所。台所と客間に挟まれるようにしてあるのが居間だ。基本的に四部屋しかこの家にはない。
水場に行くには一度台所に行かなければならない。めぐむが開けっぱなしにして行った、台所との間にある引き戸を綺麗に開け、二段段差を降りて台所に出る。足元にあるスリッパはやけに小さい。めぐむがまた寝呆けて、間違えて俺のを履いて行ったのだろう。仕方無いので、爪先に引っかけて引きずるように歩いた。台所の西側にあるのが洗面所と風呂だ。めぐむが顔を洗っている、水の音がする。
 これまた開けっぱなしの引き戸から中を覗き込むと、タオルを出し忘れたらしいめぐむが顔を濡らしたまま、きょろきょろと手をさ迷わせていた。

「ほら」

 上の戸棚から出したタオルを顔に宛ててやると、手の中でもごもごと口が動いた。自分で拭け、と渡しつつ、俺も顔を洗う。スリッパを交換して、歯磨きをする。めぐむとは頭一つ分身長が違うため、縦に並ぶと丁度良い。無言で鏡を見つめながら、縦に並んで歯磨きをするのが日課だ。空いた左手でめぐむの寝ぐせを手櫛で直す。猫っ毛の柔らかい髪が指の間をするすると滑る。めぐむと言えば俺の手を甘受しながら、大きな目を細めてまだ眠そうにする。
 朝ご飯はいつも洋食と決まっている。俺がサラダを作っている間に、めぐむがパンを焼いてスープを作る。パンはめぐむの手作りだ。スープには宣言通り、もぎたてのパセリを散らした。めぐむが急かすので、苺を洗って硝子の皿に盛り付けた。
 ご飯を食べるのは居間で。ちゃぶ台に並ぶ洋食は、毎度のことながら違和感がある。

「いただきます」
「いただきますっ」

 言ってすぐにめぐむが苺に手を伸ばそうとするので、咎めてパンを勧めた。少し口を尖らせてはいたけれど、パンに佐久間さんがくれたママレードジャムを塗ってやると、素直に受け取った。美味しければ何でも良いらしい。
 家にはテレビが無い。けれど、静かだと思ったことはない。縁側から風が流れ込み、鶏の声と、虫の声を運ぶ。裏手の森の木々が、風でわなないているのも聴こえる。隣で、麦茶を飲むめぐむの喉の音もする。


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