いつもの朝に | ナノ


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 田舎は、いつだって賑やかだ。
 夜行われていたカエルの大合唱は、いつの間にか鶏の挨拶大会に変わっている。けたたましく鳴いているのは、隣の佐久間さんの家の鶏たちだ。歩いて五分ほどの隣人、佐久間さんは朗らかな老夫婦だ。

「ん、んー」

 ここに住み始めて半年。朝は目覚ましがなくとも起きられるようになった。基本的に時間の流れが毎日一緒なのだ。それであって、退屈しないから不思議だ。
 布団の上で背伸びをして身体を解し、天上から吊るされている蚊帳から這い出た。寝室は一階の和室を宛がっていて、隣がすぐに縁側になる。縁側の、建てつけの悪い木製の引き戸をガタガタ言わせながら開けると、眩しいくらいにいっぱいの朝陽が入り込んできた。恐らく、朝六時くらい。夏が近付いて、陽が昇るのが早くなった。
 朝の空気が好きだ。夏の暑さを含んだ熱を感じる風が、頬を撫でる。けれど空気は清清しく、ひんやりと胃の中に溶け込んでいく。空はまだ、少しだけ夜色と混ざっている青色。ぐんぐんと朝陽があがっていくにつれ、この夜色は溶けて、高い高い青空に変わる。
 庭にある小さな菜園では緑がすくすく育っていた。トマトの赤が眩しい。パセリは取ってしまって、今朝のスープに散らそうか。
 パジャマ代わりの首元がくたびれたTシャツの裾に手を入れ、お腹を掻きながら寝室を振り返った。こちらに背を向けた小さな身体が一つ、布団の上に残されている。お腹にだけかけていたタオルケットは、今はくちゃくちゃになって足の間に挟まれていた。Tシャツが捲れて、白い背中が丸見えだ。背中に並ぶ背骨が、恐竜みたいに見える。

「めぐむ、朝」

 もそもそと蚊帳の中に入って、めぐむの小さな肩を揺する。痩せすぎている身体はどこも骨でごつごつしている。こうして眠っていると、ときどき、死んでしまっているんじゃないかと不安になるくらいの儚さだった。
 ぴく、と瞼が動いて、ゆっくりと大きな目が開かれていく。

「……甲斐さん?」
「ん」
「……おはよぉ」
「おはよ」
「……おやすみ」
「まてまて」

 めぐむは低血圧気味で、いつも朝はぐずる。足の間にあったタオルケットを胸の前まで引きずりあげ、抱き締めて眠ろうとするので、それを引っ張って取り上げる。

「今日の朝は、佐久間さんの苺」
「苺っ」

 ぐずるくせに、食い意地は張っている。ぴょんっと音がしそうな勢いで起き上がっためぐむは、バタバタと蚊帳を出て洗面所に行ってしまう。一人残され、苦笑しながら後を追った。


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