いつもの朝に | ナノ


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「おやすみ」
「おやすみなさぁい」

 蚊帳の中で電気を消すと、縁側から伸びる月明かりがくっきりと灯った。虫たちはまだ眠らずに、りんりんと鳴き続ける。賑やかな夜も、もう慣れてしまった。
 寝室では、めぐむと布団を並べて眠る。タオルケットをお腹にかけるだけなのが夏のスタイル。めぐむはいつも右向きに眠って安心したような寝顔を俺に見せてくれるのに、今は左向き。めぐむの右隣に横になる俺に、その顔は見えない。

「……甲斐さぁん」
「んー」
「寝たぁ?」
「寝てないよ」

 眠たそうな声で、めぐむが俺を呼ぶ。こういう夜はたまにある。
 ちらりとめぐむの方を見ると、細い背中が俺を呼んでいるような気がした。薄いTシャツに透ける背骨に、めぐむの華奢さを感じる。

「甲斐さぁん」
「んー」
「……甲斐、さぁん」

 こういう夜は、どうすべきか知っている。
 めぐむは俺を呼ぶくせに、こちらを向こうとしない。いつも俺をじっと見て、ほぅ、と息ができたように安心して、眠るのに。
 子猫が母親を呼ぶような、甘えた悲しい声がする。
 寝返りを打ち、めぐむに半身分近付いた。細い背中を覆うようにして、右腕をめぐむに回す。小さな身体は、がたいが良いとは言えない平均的な俺の身体に、すっぽりと埋まってしまう。

「どした?」

 こういう夜は、めぐむが不安になっているときだ。


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