いつもの朝に | ナノ


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「甲斐さんと、お喋りするの」
「そ」
「ふふ」

 宥めるように背中をぽんぽん、と一定のリズムで叩くと、めぐむは嬉しそうにする。
 こういう静かな、穏やかな夜には、時々考える。俺とめぐむはなんていう関係なのだろう。
 友達と言うには、言葉が足りなすぎて。ただの同居人と言うには、存在が大きすぎる。恋人のそれにも似ているけれど、俺とめぐむは気持ちを通わせたことはない。お互いのことも、基本的なこと以外はほとんど知らない。お互いの家族も、経緯も、何も知らないのだ。
 めぐむのことは、好きだった。それが恋愛の『好き』なのかはよくわからない。わからないけれど、傍にいないと落ち着かない。一緒じゃないと、何か足りないと思ってしまう。

「甲斐さんは、僕の、空気なの」

 いつか、めぐむがそう言ったことがある。

「甲斐さんと出会って、僕はやっと、息ができるようになった」

 窮屈そうに、喧噪に塗れる町で、隠れるようにめぐむは生きていた。

「綺麗な、夜」

 めぐむが月に向かって手を伸ばして、そう言うから。

「そうだな」

 そんなことはどうでも良いか、と思考を投げ捨てて、月を見上げた。


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