いつもの朝に | ナノ


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「……月が、見てる」
「……ん」

 今日は、満月だ。決まって、めぐむが体調を崩す日は、満月のような気がする。大きな月がぽっかりと夜を照らして、その力に吸い取られていくように、めぐむはぐったりとする。

「……ふふ、良いでしょ」

 突然笑って、庭に向かってそう笑う。暗くて見えなかった庭のほうから、にゃあ、と猫の鳴き声がした。ここあたりをうろうろしている、野良猫だ。

「何て?」
「そこは、居心地が良さそうねって」

 めぐむは、会話をした『誰か』を教えてくれるように、庭を指差した。ずっと昔からある、小さな木だった。秋には金木犀の良い匂いを漂わせるけれど、俺たちはまだその姿を見たことがない。俺がそっちを見ると、返事をするように枝が揺れた。

「みんな、甲斐さんのことが好きだから、羨ましいみたい」

ぶわ、と一際強い風が吹いて、植物が一斉に揺れた。いつの間にか近くに来ていた野良猫が、隣で蹲って、小さく鳴いた。
めぐむは俺の腕の中で、ふふ、と笑っている。
この自然の大合唱にも、すっかり慣れてしまった。

「甲斐さん、明日は雨みたい」
「天気予報では晴れだったけど」

 こういうときは、大体めぐむの言うことが当たる。水分に敏感な植物たちの声は、人智を超えるのだ。

「めぐむ、具合悪いんだろ。寝てろ」
「寝なぁい」

 土鍋を一つ空にして、めぐむは甘えるように俺の首に腕を回して、ぎゅっと抱きついてきた。俺と同じ洗剤、石鹸を使っているはずなのに、それらがめぐむの体臭と混じって、違う匂いを発する。気恥かしいので言わないけれど、俺はこの匂いが大好きだった。


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