いつもの朝に | ナノ


1  




 買い物をして、家に着いたのが十九時ちょっと過ぎ。この時間になってもまだ明るいくらいの季節になってきた。ここで過ごす夏は、今年が初めてだ。

「ん?」

 車を家の前まで付けたけれど、網戸になっている玄関の戸が開く様子がなかった。いつもはエンジンの音が聞こえてきたら、めぐむが出迎えてくれるのに。
 買い物袋を鳴らして、玄関の横から縁側に回った。引き戸は朝の通りすべて開けられていて、風鈴が夕方の風に揺れていた。鼻を霞める蚊取り線香の香りに、めぐむが焚いたんだろうと予想する。

「めぐむ?」

 音が全然しない。縁側を覗き込むと、客間で古い扇風機が回っていた。風を宛てられているのは、寝そべっているめぐむだった。洗濯の途中だったのか、隣に畳んだタオルや服が積まれている。何だ、昼寝してたのか、と縁側から上がり込んだ。

「う」

 気配に気付いたのか、めぐむが呻った。風通しの良い縁側で扇風機を回しているとは言え、暑かったようだ。汗で額に前髪が張り付いている。苦笑しながら前髪を払ってやる。
 ピピー、とご飯が炊けたことを炊飯器が知らせた。

「……めぐむ?」

 額が、熱い。熱中症かとも思ったけれど、寒そうにお腹のタオルケットを肩に引き上げていたから、単純に風邪を引いたんだろうと思った。細い首と膝の下に手をいれて、横抱きにして隣の寝室に連れて行った。

「甲斐、さん?」
「ん」
「……おかえりなさぁい」
「ただいま。また、熱出てる。飯は食えそう?」
「食べる……」

 風邪をひいてもなお、食い意地は張っているので安心する。身体は細いのに、どこにその食べ物が吸収されていくのか不思議だ。蚊帳の中に布団を敷いて、寝かせた。お粥を作っている間、氷枕を作って頭の下に引いてやると、気持ちよさそうに目を細めていた。

「めぐむ、ご飯食べよ」

 土鍋を持って寝室に行くと、めぐむがきつそうに身体を起こした。手伝いながら上半身を起こしてやると、縁側に行きたい、と小さく言うので連れて行った。横抱きにしたまま俺が腰を下ろし、脚の間に座らせてやる。土鍋からお粥を掬って、少し冷まして口に運んでやると、めぐむは嬉しそうに笑った。


prev / next

[ list top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -