それでも優しい恋をする | ナノ


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「中園、次の模試の志望校、どうする気だ」

 補講終了後のホームルームで配られた一覧を見ていたら、なべちゃんが近付いてきていた。途中まで書いた用紙をなんとなく伏せた。
 模試があるのは補講最終日だった。その時には志望校をいくつか選定しなければならず、模試の点数で現時点での志望校への合格ランクが出てくる。まだはっきりと志望校を決めていない生徒は少なくはなかったけれど、俊太ほど方向性が決まっていない生徒はいなかった。

「何だ、もう書いてたのか?」
「やめてなべちゃんっ」
「何だ何だ」

 志望校を書いた用紙を捲くられそうになって、慌てて腕で阻止した。担任である以上、俊太がどこを志望しているのかはいつかはわかってしまうのだが、今目の前で見られるのはなんとなく気恥ずかしかった。

「湯川はF大って言ってたな。お前も一緒か?」
「……違うけど」
「F大、いいじゃないか。近いし、レベルも丁度良い」
「……俺が行きたい学部、F大にはねぇから」

 それなりに自分も将来のことを考えているのである。今まで考えていなかっただけで。なべちゃんに舐められているような気がして、けれどはっきりと言うには少し自身が無くて、勢いに任せて用紙をなべちゃんに押し付けた。

「……意外、なところに来たな」

 用紙を見つめてそうは言ったものの、なべちゃんは俊太を馬鹿にはしなかった。気恥ずかしそうに頬を膨らまして肘を立ててそっぽを向いている俊太の頭を、荒く褒めるようにがしがしと撫でた。

「やりたいこと、見つかったか」

 なべちゃんがあんまりにも嬉しそうだったから、ちょっと負けたような気がした。
 自分でも、似合わないと思った。けんちゃんのように不純な理由で学部や大学を選んでも良かった。それでも、俊太の中で真剣に考えたい将来があった。
 あずに出会って、手話に出会った。自分とは違う生活を、違う生き方がいる人たちがいると知った。あの時あずが泣いたことが忘れられなかった。
 あずの生活を守っていくためには、何が出来るんだろう。この社会は何をしてあげられるんだろう。手助けをするには、自分に何が出来るんだろう。そう思ったときに、知りたいことややりたいことは見つかった。
 もうあずが、泣かないように。福祉の道を、俊太は選んだ。


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