あずと対等になろう。不自由なく会話が出来るように、そばにいられるようになろう。そう覚悟したのはあの日がきっかけで、こうして俊太はあずを誘い、手話の勉強会を申し出ることにした。
同情がないわけではなかった。けれど、あずと話したいという純粋な気持ちは、最初から変わっていなかった。
あずと出会って、手話と出会って、一つ、俊太は目標を見付けつつあった。
『自転車?』
簡単な会話なら十分に空で出来るようになり、俊太はあずの傍らに止めてあった自転車を見付けた。
『午前中、配達があったから』
自転車で配達を終えてここに来たということなのだろう。あずが自転車を押して歩きだそうとするのを、俊太は後ろからハンドルを握ってそれを拒んだ。
『後ろ、乗って』
あずが驚いたように目を大きく見開くので、笑って後ろを指差した。
『ドライブしよう』
歩くよりは、自転車のほうが幾分か涼しいだろう。二人乗りは良くないのはわかっていたけれど、見つかったところで逃げてしまえば良いのである。俊太の悪ガキのような笑みにつられてか、あずも笑って後ろに乗った。
肩にかけていた鞄を籠に乗せると、後ろに乗ったあずが戸惑ったようにサドルの後ろを控えめに掴んだ。それじゃあ振り落とされるだろうと、小さな手を取って背中のシャツを掴ませた。
『汗くさいかもしれないけど』
『平気』
きゅ、とシャツが引っ張られるのがわかる。ぐん、とペダルを踏むと二人分の重さでゆっくりと自転車が進みだした。
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