授業に関しては大層真面目に受けたため、事あるごとに教師に驚かれ、若干の疎ましさを感じつつ午前中を終えた。こんなことだったらもう少し真面目にやっていれば良かったと、珍しく教科書とノートを鞄に詰め込みながら溜息をついた。
午前中の終わり、午後の始まりというのは、最も気温が上がるように感じる。太陽はぐんぐんと高くあがり、青空を眩しいくらいに輝かせていた。教室からは入道雲の盛り上がりがよく見えて、より夏の様相に暑さが増したように感じた。
「俊太、飯はー?」
「先約ありー」
けんちゃんが席から叫んできて、俊太は鞄を肩にかけながら手を振った。教室は補講が終わった瞬間に冷房が切れてしまって、徐々に気温を上げてきている。
世間的には夏休みの今、購買は開いていない。真知子さんも絶賛夏休み中である。コンビニで買って来ていたスポーツドリンクを仰ぎながら、俊太は教室を出た。
「うわ、あっつ……」
廊下は人の熱気でさらに気温が上がっていた。こりゃ、外はもっと暑そうだな、と歩みを速めた。向かったのは、東棟と西棟の間である。今はシャッターが締められた購買の前、一般人が唯一入ることが出来る駐車場の横が待ち合わせの場所だった。
いた。
『あず』
驚かさないように肩を叩いて、振り向いたところで名前を呼んだ。あずは俊太を認めると、ぱぁっと笑った。
あずを誘ったのは俊太からだった。夏休み、補講が終わったら購買前で落ち合おうと約束していた。あずは二つ返事で快諾した。足の怪我も治ってきた中、配達の仕事がない夏休み期間中のリハビリにも良いからと、あずは歩いて学校へ来ると言った。
誘ったのは一つ、明確な理由があったからだった。
『しゅんと、対等でいたい』。そう言ったのはあずだった。俊太と同じになることは、耳の聞こえないあずには到底無理なことだった。けれど、その逆だったなら。俊太があずと同じになることは、可能だと思った。
その、純粋で懸命な願いと、大きな目にいっぱいに溜めた涙を、俊太は忘れることが出来ずにいた。
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