それでも優しい恋をする | ナノ


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 八月に入ると一気に夏が本気を出したように、じりじりと太陽が肌を焼いた。
 七月下旬に終業式を終えた俊太には、平和な夏休みは訪れなかった。終業とは名ばかりで、当たり前のように次の日から補講が行われた。補講は受験前の文理選択を目前に控えた二年生と、受験生の三年生だけで、一年生は元気にグラウンドで部活に勤しんでいた。

「あちぃ、あちぃよ……」

 補講が始まるまで、一括操作されている教室の冷房は効かない。窓を全開にして風で涼を取りこむ細々しい努力をしながら、窓際の席に座る俊太は机に身体を寝そべらせた。

「怖ぇ、怖ぇよ……俊太が補講に来てる……」
「失礼な、けんちゃん」
「しかも遅刻せず」

 トレードマークの金髪を黒に染め、色の落ち着きに合わせて若干ヘアスタイルを変えた俊太は傍から見れば普通の男子高校生で、学校一の遊び人なんていう肩書きはどこへやら、教室でも遠巻きにクラスメイトが奇異の目で見つめていた。
 改心するほどの大げさなことはなかった。けれど、将来のことを少しは真剣に考えて行かなければいけないのだと思うようにはなったから、てっとり早く真面目に学校には行こうと考えただけのことだった。

「野球部元気だよなー」
「…………」

 窓辺に腰掛けてグラウンドを振りむいたけんちゃんが、顔に風を受けながら目を細めた。遠くで聞こえる掛け声は一定で、太陽の熱を吸いこんだ砂の上で、並んでランニングをしているんだろうと見受けられた。見ていると暑くなりそうなので、俊太は冷たい机に頬をつけたまま、目を閉じた。
 補講がある午前中だけは、一年生だけの部活になるのはどの部も同じで、野球部もきっとそうなのだろう。指示を飛ばす声が聞き覚えのある声で、余計に見る気が失せた。

「あ。あれ、風間くんじゃん」
「言わないで」

 ちょっとは良いやつかも、と悠平とは和解をした仲ではあったが、敵対心がないわけではない。自分に焦っている今、自分にないものを持っている悠平を見ている余裕はなかった。


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