それでも優しい恋をする | ナノ


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『しゅんが、羨ましい』

 いつもにこにこ笑っていたあずが、ぽつりと文字を残した。

『僕は耳が聞こえないことを受け入れてきたけど、しゅんを見てると、哀しくなる』

 何でそんなことを言うんだろう。

『しゅんと、話がしたい』

 泣きながら、困ったように笑う。

『しゅんと、対等でいたい』

 あんまり悲しい顔で笑うから、俊太も泣きそうになった。
 込み上げる気持ちがあった。そんなことを言うなんて思わなかった。ぼろぼろと泣きながら笑うから、指で拭っても間に合わなかった。

『泣かないで』

 手話で伝えても、あずは泣くだけだった。どうして良いかわからなくて、そっと、頭を引き寄せた。

「!」

 あずは、俊太の背中にしがみついて、胸の中で泣いた。細い肩を震わせるから、落ち着かせるように背中を撫でた。
 小さかった。華奢な身体で、一生懸命に俊太に縋りついていた。
 愛しさに、胸が苦しくなる。

「……好きだ」

 やっぱりあずには聞こえなくて、返事はなかった。
 『好き』の伝え方は知っている。最初に本で覚えた。方法はわかっていても、いざとなると伝えることが出来なかった。
 もっと、堂々とあずに向き合えるまで。この気持ちは仕舞っておこうと思った。


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