それでも優しい恋をする | ナノ


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 あずは怒ったように、両手を動かした。

「ま、待って、あず、わかんねぇ」

 何かを怒りにまかせて伝えているけれど、俊太にはわからなかった。ただあずは眉間に皺をよせながら、両手を忙しく動かした。

「あず!」

 ぱし、と両手を掴んだ。あずは段々と泣きそうな顔になって、目に涙の膜が張っていくのがわかった。
 泣く、と思ったときには、あずはペンを手にとっていた。

『馬鹿にしてるの』

 字は小さく、震えていた。

『聞こえないこと、馬鹿にしてるの』

 あずを侮辱してしまったのだと、気付いた。はぁ、はぁ、と息を荒くさせながら、あずは零れそうな涙をためて、責めるように俊太を見ていた。

『言いたいことがあるなら、言って』

 ぼろ、と涙が零れた。あずにとって聞こえないということは当たり前で、それがあずの生活で、それに甘えて、言葉を隠そうとした。
 それはあずに対する侮辱だと知った。あずも俊太と変わらぬ人間で、感情があった。伝わる言葉は少なくても、気持ちの量は変わらなかった。

『ごめん』

 手話で、あずの言葉で、伝えた。大きな目から流れる涙が綺麗で、おずおずと手を伸ばした。あずが拒否しなかったので、人差し指を曲げて涙を拭った。

『ごめんな』

 頭を撫でると、ふるふると首を横に振られた。

『僕も、ごめん』
「…………」
『ちょっと、苛立ってた』

 聞こえないという、世界からの隔絶は、あずにとってはストレスなのだとわかった。


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