あずが熱心に髪を触るので、なんだか照れくさくなりつつ、仕返しにとあずの髪を撫でた。色素の薄いこげ茶色の髪はさらさらと指通りが良く、ふわりとシャンプーの匂いがした。
図らずも、どきどきした。思春期真っ盛りのガキみたいで、自分が恥ずかしかった。いつもならこんな雰囲気だったら、抱き締めてキスをして事に及ぶのに、やっぱり何も出来なかった。
「あず」
聞こえないのを言いことに、名前を呼んだ。やっぱり返事はなかった。
「すき」
空気を震わせて、言葉ははっきりと出た。でも、あずからの返事はなかった。あずの肩を掴んで向かい合わせにさせると、あずは大きな目をぱちぱちさせながら、首を傾げた。
「っ……」
純粋な目に、何も言えなくなる。はぁぁ、と溜息をつきながら、顔を伏せた。
何をしようとしてた?何を言おうとしてた?
こんな、将来性もなくて、中途半端で、何の利得もないただの男子高校生である自分に、何が出来るんだろう。伝えて、もし気持ちを通わせたところで、あずに何をしてあげられるんだろう。
これから、誰があずを守っていくんだろう。
「……好きだ……」
それでも、漏れる気持ちがあった。顔を伏せたまま呟いても、誰にも聞こえなかった。
これを直接あずに言う資格は、今は自分にはないのだと、俊太は感じていた。
とんとん、と肩を叩かれ、伏せていた顔をあげた。あずが首を傾げて、メモを走らせた。
『今、何て言ったの?』
聞こえなくても、声が震わせた空気だけはあずに伝わっていた。それでも、伝えることはできなくて、俊太は首を横に振った。
あずは、珍しくむっと眉間に皺を寄せた。書いたメモをとんとんと指で叩いて、示してくる。
『今、何て言ったの?』
もう、首は横に振れなかった。
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