それでも優しい恋をする | ナノ


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 中園俊太が学業に本気になったらしい、というのはあくまで噂でしかなかった。もともと遊び人として名前を馳せていた俊太の変化の噂は、瞬く間に学校中に広がっていった。
 あれから俊太は、図書館に通うようになっていた。教室は騒がし過ぎて、本を読む気にならなかった。ついでに手話の本もたくさん置かれていることを知って、俊太の勉強場所は図書館にチェンジした。余談ではあるが、司書の女性とも目敏く仲良くなった。
 授業も真面目に出るようになった。サボろうにもお気に入りの場所の社会科資料室は空調がなく、涼しい教室で眠っていたほうがマシだと思った。余談ではあるが、授業中に開いていたのは専ら教科書ではなく、手話の本である。
 遊び回ることも少なくなっていた。時々けんちゃんと馬鹿騒ぎすることもあったが、あずに会う回数の方が増えていった。あずと会うと毒気が抜かれたようになってしまうので、どうしても、遊ぶ気持ちが薄れていくのだった。

「噂には聞いてたんだがな?」

 職員室はがんがんと空調が効いていて、ずるいなぁと心中でぼやいた。なべちゃんと向かい合わせで席に座らされ、俊太は居心地悪く足を擦り合わせた。
 昼休みの職員室は、行きかう生徒の姿も多く賑やかだった。少し離れた職員用机に案内された俊太は、いつもと違う光景に落ち着かなかった。

「ちょっとは真面目に勉学に励むようになったとは思ってたが」

 とんとん、と机の上のテスト用紙を指差される。大変居心地が悪い。

「模試の点数まったく上がってないな?」
「……だって勉強してねーもん」

 はぁ、となべちゃんが大げさに溜息をついて、椅子に背を預けた。

「お前、やればできるのにしないからな……。本気で進路どうするつもりだ?」
「ん、んー」
「文理選択ももうすぐだし」

 進路について少しは考えなければいけないというのは、俊太も頭の片隅くらいには引っかけていた。ただ考えても答えが出なかったので、そのまま放置していたというのが正しい。

「やりたいこととか」
「やりたいこと、ねぇ……」
「……まぁ、将来のことって言ったってよくわからんとは思うがな」

 文理選択、大学選択が将来に直結するわけではない。けれど少なくとも、方向性を決めるエッセンスにはなる。そんな重要な選択を、簡単にして良いとは思わないのだった。


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