昼休みのチャイムが鳴った途端、東棟の端にある購買はどっと人で溢れ返る。
東棟の一階南側にはやや広まったスペースがあり、そこにカウンター式の購買はある。男子高校生の食欲は馬鹿に出来るものではなく、チャイムが鳴ると胃袋の赴くままに生徒は購買に向かった。自宅から弁当を持参している生徒もそれだけでは胃袋が満たされず、追加のパンを買うことも多い。
中園俊太も育ち盛りの高校二年生で、購買の世話になっていた。家から持たされた弁当はあるが、昼休みに入る前に食べきってしまうため、追加のパンを買うのが常だった。
ただ、俊太が購買に行く時間は遅い。人混みが苦手というわけではなかったが、出来ることならば争いには加担したくない。昼休みもあと十五分ほどで終わるという時間に、俊太は購買に訪れる。
その頃には、カウンターに並べられていたパンや弁当は、がらんどうになっている。けれど焦ることはない。ゆるく腰パンにした制服のポケットに手を突っ込みながら、上履きの踵を踏みつぶし、ペタぺタと階段を下りた。案の定購買にはちらほらと飲み物を買う生徒くらいしかおらず、けれど余裕に口笛を吹きながら俊太はカウンターに向かった。
「真知子さん、いつもの!」
長身をカウンターに寄り掛からせながら、俊太は手をあげた。さながら居酒屋の常連客の出で立ちで、カウンター内にいる俊太の母程の歳の女はくすくす笑った。
「はいはい、いつものね」
「冷えてる?」
「冷してるよ」
「ありがと」
真知子と呼ばれた女は販売用の冷蔵庫の奥から紙パックのジュースを、棚から袋に入ったメロンパンを取りだした。ジュースは苺ミルク、パンはメロンパンというのが俊太の流儀である。
「俊太くん、また午後サボる気でしょ」
早速受け取った俊太は紙パックにストローを突き刺し、ジュースを啜った。
「まぁね」
「駄目よー」
「出ても寝るからどっちにしたって一緒でしょ」
「渡辺先生、いつもぼやいてるよ」
「えっ、なべちゃんも購買利用すんの」
午後一の授業は出ない。これも俊太の流儀だった。教師も同級生もそれを咎めるけれど、俊太に聞く耳はない。校則違反を余裕で破る金髪も、ピアスも、制服のワイシャツの中の派手なティーシャツも、「またお前か」の一言でさらりとかわしてきた。
学校一チャラいやつ、と言ったのは誰だったか。それでも周りにいつも友人の輪が出来るのは、基本的に俊太は良いやつだからだった。人懐っこさと物怖じしない性格が、こうして真知子との秘密契約を生み出した。
この購買では、取り置きはしていないのだ。
「んじゃ、一眠りしてくる〜」
「はーい」
真知子は基本的におっとりしていて、口では咎めつつも怒ることはなかった。ただ俊太の話に耳を傾け、笑い、喋り相手をしていた。今日も手をひらひらと振り、堂々とサボりを決め込んだ俊太を送り出した。
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