それでも優しい恋をする | ナノ


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 CLOSEの看板がかかっている店の中に入ると、カウンターを拭いていたゆりが一瞬ぎょっとした。

「何だ、俊太くんか。って、あず」
「外で扱けた」
「うそ」

 カウンターの内側にあるパイプ椅子にあずを座らせた。怪我はないようだった。後ろから看板を持ってきたけんちゃんに気付いたゆりが、それを受け取った。

「俊太くんの友達?ありがと」
「や、」

 ゆりが看板を持ってカウンターの奥に入っていった瞬間、けんちゃんが俊太に耳打ちした。

「えっ、誰?今の誰!?」
「あずの姉貴、ゆり」
「姉!?年上、だよなー、やば、俺好み」

 けんちゃんは年上の女性好きで、ことさらに気の強い子が好きなのだ。なるほど、ゆりはドストライクかもしれないなぁと今更ながら気付き、目を輝かせるけんちゃんを置いて、右足を気にするあずの目の前にしゃがみ込んで、スマホを打った。

『足、痛い?』

 あずはにこりと笑った。

『大丈夫』

 俊太もわかる手話を使ってくれたんだとわかった。奥からゆりが戻ってきて、早速お近づきになろうと話しかけるけんちゃんを放置しつつ、鞄から本を出した。あずに差し出すと、それをぱらぱらと捲って、驚いたように本と俊太を交互に見た。

『あずと、話ができるように』

 まだ、十分にはできないけれど。スマホで打って見せると、あずは本をぎゅっと抱き締めて、嬉しそうに笑った。
 ぎゅ、と胸が苦しくなる。こんな感情は久しぶりだった。さぁ、と涼しい風が頬を撫でたような清涼感が身体を通っていく。
 もっと、笑って。俺に笑ってみせて。かっこ悪くても、ダサくても、あずが笑ってくれるなら少し努力をしてみようか。そう思いながら、あずの眩しい笑顔に目を細めた。


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