それでも優しい恋をする | ナノ


6  




 けんちゃんは好奇心旺盛で、そういうところも俊太は嫌いではなかった。

「どの子、どの子?」

 放課後、けんちゃんの推し進めるままに俊太はあずを見せる算段になっていた。北口から高架を渡って南口へ行き、電柱の影に隠れながらツバキ屋の看板を見た。

「え、あそこのパン屋?この前言ってたやつ?バイトの子?」
「そ」
「店行けばいいじゃん、何で隠れんの」
「けんちゃんに会わすわけねーだろ」
「ひっど」

 時刻は十七時を回ろうとしていた。ツバキ屋の閉店の時間である。暑い、あんま近寄んな、と二人でぐだぐだしながら店を窺っていると、ちりんとベルが鳴ってドアが開いた。

「お」

 声をあげたのはけんちゃんだった。出てきたのは、右足をひょこひょこ引きずっているあずだった。店先に出していた看板を中に片付けるらしい。

「え、可愛いじゃん。……って男じゃん」
「そだよ」
「お前バイだったな。俺は男はなぁ……」
「てか、けんちゃんも狙うつもりだったの」
「俊太があれだけ本気にしてる相手だろー?」

 あれだけってどれだけだ。心中で突っ込みをしつつあずを見守っていると、案の定、と言うか。

「あず!」

 よろよろと危なっかしい感じがあったけど、予想通りにあずが扱けた。看板がバタンと倒れ、静かな住宅街に響いた。
 反射的に電柱の影から飛び出して、あずのもとに駆け寄った。コンクリートに座りこんだあずが気付いて顔を上げ、驚いたように目を見開いた。

『大丈夫?』

 覚えた手話だった。今このときのために覚えたんだと言いたいようにぴったりのシチュエーションに、俊太は伝わるかどきどきしながら右手を動かした。
 あずはやっぱり驚いたように固まって、一瞬してからふわ、と笑った。伝わった、と安心して、あずに手を貸した。片足では立ちにくそうにするので、腕を引いて俊太の肩に回すように促した。
 背負う、という行動が伝わったらしく、あずは若干戸惑いながら、目の前にしゃがんだ俊太の背中にゆっくりと乗った。想像以上に軽くて、俊太は踏鞴を踏んだ。それを見ていたけんちゃんが慌てて駆け寄り、倒れた看板を持ってくれた。


prev / next

[ list top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -