「今日は突然ごめんねー。俊太くんも差し入れありがと。悠平はこういうの、いつも気がきかないから」
「あはは、当然ですよね、こういう場だったら」
「先輩うるさいっ」
ゆりがキッチンから料理を運んでくるのを手伝いつつ、ようやくダイニングに形が揃った。オードブル形式で大皿にどんと料理が並んでいて、学校帰りでお腹をすかしていた男子高校生二人はごくりと唾を飲んだ。
「料理うまいんだな、ゆり」
「あぁ!?何がゆりだっ、ゆりさんだろっ」
「おま、先輩相手にタメ口使うなっ」
「ハイハイ、スミマセンデシター」
「うるさいうるさい。喧嘩しないの」
ゆりはいつも手話をしながら会話をする。読みとったあずが、珍しくむっとした顔で両手を動かした。
「喧嘩はいけません!ってよ。ほらー」
ぷんぷん、という擬音語がするほど頬を膨らましてみせるので、俊太と悠平はぐっと言葉を飲み込んだ。
「さっ、食べよ食べよ!あず、退院おめでとー!」
ウーロン茶とオレンジジュースで乾杯をして、パーティは始まった。酒以外で乾杯とか久しぶりかも、なんて不真面目なことを考えつつ、俊太はゆりの料理に手をつけた。
「あ、おとーさん」
「賑やかにやってるな」
足音が近付いてきたと思うと、廊下からちらりと顔を出てきた。職人、という言葉が似合いそうな、がたいの良い身体付きに凛々しい顔つきをしていた。歳は食っているが、若いころはさぞモテただろうという面影は残っていて、これが美人姉弟の父親かと俊太はまじまじ顔を見つめた。
「おとーさんも食べる?」
「いや、俺はいい。若いモンで楽しめ」
「はーい」
去り際、俊太と悠平に笑いかけながら会釈をするので、二人も揃って頭を下げた。笑うと愛嬌のある、優しそうな父親だった。
チキンに被りつきながら、俊太はちらりとテレビのほうを見た。電源が落とされて暗い鏡になっているテレビの横に、写真が立てられているのに気付いていた。若く、綺麗に微笑む女性のバストアップ写真だった。垂れた目があずに似ていて、母親なんだろうと予想できた。
お母さん、亡くなってるのか。思いつつ、口には出さなかった。
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