「いや、つーか何でお前がいるんだよって」
「当然じゃないですか。逆に俺が聞きたいですよ、先輩こそ何でいるんですか?」
「呼ばれたからに決まってんだろ」
「俺の方が先に呼ばれてました」
「俺だよ」
「俺です」
ほんと、こいつ嫌いだ。
俊太が椿谷家に呼ばれたのは二回目だった。あずのお見舞いに行ってから数日後、あずからメールが来たのだった。いわく、退院したから遊びに来い、とのことだった。
怪我自体は俊太が思っていたよりひどくはなかったようだった。ゆりに聞けば、右足の指を折った程度だったと言う。松葉杖は使わなくて良い程度だったが、右足は甲から包帯が巻かれているし、何より歩くのが自由かというとそうでもなかった。
あずの退院祝いをしよう、と言いだしたのはゆりで、ささやかなお祝いにと学校帰りにケーキを買って椿谷家にやってきたのが今のこと。勧められるがままに家にあがると、ダイニングにはあずと、悠平が座っていた。
「つか、お前部活は。野球部なんだろ」
「今日は休みです」
「あっそ」
「先輩っていつも暇なんですね」
「何おう」
横並びに座らされ、ばちばちと目線で火花を散らしながら口を結ぶと、対面に座っていたあずが両手を動かした。さっきから何かよくわかっていない様子で、にこにこと笑っていた。
「……いや、あず、それはない」
読みとった悠平が手を動かして嫌そうな顔をした。
悔しいから直接聞けずにゆりから聞いたことだったが、悠平は簡単な会話なら手話が出来るのだという。何でも、悠平の母親があずの学校の先生で手話を駆使していたため、自然と覚えたそうだ。
「何、あず何て言ったの」
「先輩には関係ありません」
「何だよっ、教えろっ」
「……仲良いんだね、って」
あずはにこにこ顔で、二人の様子を見ていた。
「……おい、ちゃんと否定しろよ」
「しましたよ」
「絶対わかってねぇだろ、あず」
あずは、両手を胸の前で上下させて『嬉しい』をした。『楽しい』という意味もあるのだと、俊太は後から動画で知った。
純粋に嬉しそうな様子に、やはり二人は、ばつが悪そうに目線を合わせるのだった。
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