顔を赤くして震えるあずを見下ろしながら、俊太の頭には警報が鳴り響いていた。
この先どうしようか、俊太の主導で決まる。その優位性が逆に箍になった。
このまま事に及んでも、何をしても、あずは抵抗しないだろうと思えた。否定する言葉も持っていないし、抵抗する力も俊太のそれよりは確実に弱い。
それでも、尚。俊太の頭は一瞬で冷えた。
あずは、綺麗過ぎた。俊太が思っている以上に、何にも染められていなかった。簡単に踏み込んではいけないものだと察した。堕とすことは簡単だけれど、それに伴う罪の意識は、大きいだろうと予想できた。
「……ごめん」
聞こえないとはわかっていたけれど、声にしたくて仕方なかった。
思った以上に、俊太自身は悪くなれなかった。
綺麗だから大切にしたいと、思ってしまった。
「ごめんな」
あずの身体を起こして乱れてしまった髪を撫でると、唇を読んだあずが、ふるふると首を横に振った。恥ずかしそうに目を反らして顔を俯かせるその姿に、愛しさが湧き起る。
こんな気持ちが残っているなんて、思ってもみなかった。
この状況で、何も手を出せないなんて。
「びっくりさせたな」
あずの手は、微かに震えていた。それは驚きからか、恐怖からか、わからなかったけれど。
その小さな手を優しく撫でると、あずの顔が少しだけ上がった。安心させるように笑って見せると、ほっとしたような笑顔が漏れた。
もう、あずには何もできない。その確信が俊太にはあった。無防備で、無邪気で、だからこそ何の手も出せなかった。
「……くそ」
自分で思っている以上に、あずのことを想っていた。
俊太の心中の葛藤も、小さな悪態にも気付かないあずは、ただ嬉しそうに、自分の右手に重ねられた俊太の手を撫でていた。
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