『待ってた』
そう打つと、嬉しそうに俊太の手を握った。スマホを俊太の手に返し、あずは両手を胸の前で上下させた。
『う、れ、し、い』
音のしない口でそう言った。俊太は意図せずまた一つ、手話を覚えてしまった。
『来ると予想してた?』
試しに、意地悪な質問をしてみた。あずは俊太の文章を見て一瞬きょとんとしつつ、ふふ、と笑った。
『しゅんは、優しいから』
『優しい?』
『来たら良いなって、思ってた』
あずがまた、楽しそうに笑うから、自然と力の入っていた肩がすとんと下りた。
計算なんて買いかぶり過ぎだった。あずは純粋に、俊太のことを待っていたのだと知った。その信頼を得るようなことを、俊太自身はしたつもりはなかったけれど。
『しゅんと話すの、楽しい』
嬉しそうにするから、俊太は毒気を抜かれたように身体の力を抜いた。
勝手にあずを邪推して、嫌なやつにしたてようとした自分の想像力が憎かった。もっと単純に、素直に、真っすぐに。あずは根っからそういう人間だった。
面倒、だとはもう思わなかった。羨ましかった。綺麗だと思った。自分とは全く違う世界で生きてきたんだろうなと、眩しいものを見る気持ちだった。
『俺も、あずと話すの楽しい』
見よう見まねで、両手を胸の前で上下させる。『嬉しい』の感情表現。あずはやっぱり、嬉しそうに笑った。
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