それでも優しい恋をする | ナノ


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 自分でも動揺しているのがわかる。落ち着け、と言い聞かせながら、俊太は背中に伝う汗を感じた。

「っ……で、どうなったの」
「命に別条はなかったですけど、足を怪我して……。学校に配達も行けないし、店にも出られないし、あいつ……先輩のこと気にしてるんです」
「俺?」
「自分に会いに来てくれたときに、会ってあげられないからって」

 カッと頬が赤くなるのがわかった。すべて見透かされているみたいだった。まさに今からツバキ屋のあずに会いに行こうとしていたことも、すべてあずの計算だったとしたら。

「あず、先輩に会いたがってます」
「会いたがってるって、なぁ……別に、あの日一回会っただけだし」

 このままあずの策略にはまるのは納得いかない。俊太のプライドがそれを止めていた。遊んでやるつもりが、遊ばされていたとしたら、それほど屈辱的なことはない。純情な振りをして策士。一番性質が悪かった。

「病院、南口の総合病院です。病室は301」
「……おいおい、まだ行くって言ってな、」
「でも、行くでしょう」

 確信を持った目が俊太を見つめていた。ぐ、と言葉が詰まる。
 交通事故、しかも背後から来た車から撥ねられるなんて、ぞっとした。耳が聞こえていたなら、それは防げたかもしれない。
 聞いて浮かんだ感情は、面倒くささでも同情でもなく、あずが怪我をしたという恐怖と加害者への敵意だった。

「あずは純粋すぎて怖いときがある。時々、俺だって面倒くさくなるときがある」
「ぶっちゃけたな」
「面倒だけど、放っておけないんです。ふらっとどっか行きそうで危なっかしくて、俺がついていなきゃって思うんです」
「……ふぅん」
「俺が毎日見舞いに来てるのに、あずは『しゅんは元気?』っていつも聞くんです。最近、メールもちゃんと返してやってないでしょう」

 確かに、メールの返事はおざなりになっていたかもしれない。

「あずは笑ってますけど、事故にあったこと、ショックだったみたいです。だから、せめて見舞いに行ってくれませんか」
「……俺、悪影響及ぼすかもよ?」
「意外と根に持ってますね、それ。まぁ、先輩には気を付けるように、あずには念を押してますから」

 こいつ、あずに何を言いふらしてるんだと一瞬怖くなりつつ、壁から背を離した。


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