それでも優しい恋をする | ナノ


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 帰りにツバキ屋に寄ってみるか、と思ったホームルーム終了後、俊太はさほど教科書も入っていない鞄を机の上に置いた。

「俊太、なんか一年が呼んでる」
「ん?」

 クラスメイトの声に教室の入り口を見ると、相変わらず眉間に皺を寄せた険しい顔をしている風間悠平が立っていた。これから部活に行くところなのか、大きなエナメルのスポーツバックを肩にかけていた。

「なぁに、悠平くん」
「ちょっと、いいすか」

 こちらの返事を待たずに悠平が進みだすので、拒否権はないのかと思いながらその背についていった。これから帰宅する生徒や部活に行こうとする生徒で廊下は人に溢れていて、その賑わいを縫うように悠平は進んで行った。
 着いた先は、購買だった。今はもう閉店時間になっていて、シャッターが閉まっている。今の時間、このあたりを通る生徒は少なく、喧騒が遠くから聞こえるくらいだった。

「……あずのことですけど」

 早速、と言った様子で悠平が切りだし、俊太はあの日と同じように腕組みをして壁に背を預けた。

「なぁに。君の忠告通り、あれ以来会ってないけど?」
「……その」

 歯切れの悪い会話だった。ばつが悪そうに悠平は目を反らし、エナメルバッグの紐をぎゅっと握った。

「あずのところに、行ってやってくれませんか」
「……はぁ?」
「言ってることが違うってのは、わかります」
「何で突然」

 顔を見る限り、俊太のことを気に行っていないであろうことは感じた。それでも渋々と言った感じでこうして直々にお願いに来るには、わけがないはずはないと踏んだ。

「あず、入院してるんです」
「……え?」
「後ろから来た車に、轢かれたんです。音が聞こえなくて」

 ぞ、と背筋が凍るのがわかった。


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