メールアドレスを交換したのは、単純にあずが可愛かったから、あわよくば仲良くなって手を出すためだった。早々にその計画を頓挫した俊太だったが、あずはその算段を知る由もなく、至って普通にメールを送り続けてきた。
それを無視することも簡単だったけれど、何せ顔見知りにはなった仲である。それも憚られて取り留めのない返答だけは続けていた。
空気が読めない、と言えばそれまでかもしれない。それくらいあずは真っすぐで、俊太が近付いた意味も、離れようとしている意味も、理解しようとしていなかったし出来なかっただろう。
『しゅん、最近会わないね』
あずからのそんな健気なメールが来たときですら、俊太は他校の女子高生と合コンをしていた。会わないんじゃなくて、会わないようにしてるんだけど、と思いつつも『そうだね』と素っ気ない返事を送る。
二次会のカラオケで、ボックスの中はがんがんと音が響く。けんちゃんが座席の上に立ちあがって力強く何か歌っているのをBGMに、送信中と表示されるスマホを見つめる。
そこまであずに懐かれるとは思ってみなかった。あまり友達がいないのかもしれない。手話をわざわざ覚えてきたことが嬉しく感じたのかもしれない。
住む世界が違うんだよ、と言いたくなる。あずが思っているほど自分は良い人ではないし、やることやってるし遊んでばかりいる。手話を覚えたのは気まぐれで、その根本には「あわよくば」なんて汚い感情が巣食っている。
悠平、のような、真っすぐなやつがあずにはお似合いだった。
「あず」
「えっ、俊太なに!?」
「けんちゃんうるさいっ」
マイクで叫ぶな!と座席にある足に蹴りをいれておく。女子高生がきゃっきゃとおかしそうに笑った。
綺麗に巻かれた髪に、ばっちりの化粧。磨かれた長い爪、ぬかりのない仕草に、そうそうこれだよこれ、と目を細める。
「わ〜、俊太くん、目つきやらしい」
一番可愛いと思っていた子が、言葉に反して嬉しそうに笑った。
笑った顔が、ううん違うんだよなぁ、と反射的に感じてしまう。そんな計算的な角度でなく、色気を含んだ潤みでなく、可愛こぶった口元ではない。
「……あず」
「え?何?」
「……何でもない」
たった名前を呼ぶだけ、それだけで胸が高鳴る。
あんたじゃない。あずはもっと、綺麗に笑う。
無意識に比較して、俊太は溜息を吐く。
夢中になっているのはどっちだったか、思い知らされるようだった。
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