「俺、一年の風間悠平って言います」
「ゆーへいくん、ね」
「……あずの、知り合いなんですか」
あぁ、そうか、と気付いた。
俊太は良くも悪くも、色んな噂をされるような人物だった。バイということも隠してはいなかったし、とっかえひっかえ特定の相手を作らずに遊んでいることも、授業態度も見た目も真面目ではないことも、学年は違えど周知なはずだった。そこまで有名だとは本人も思ってはみなかったが。
悠平は少なくとも俊太に良い印象を持っていない。それだけはひしひしと伝わってきて、けれど俊太はいつもの笑みを崩さなかった。
「まぁね」
「……そうですか」
「君は?」
ゆりとあずはせっせとパンを運び、真知子は開店準備をしていた。避けるように二人は渡り廊下側に少し離れ、俊太はポケットに手を突っ込んで壁に背を預けた。
「俺は、あずの幼馴染です」
「ふぅん」
言いたいことはわかっていた。けれど、俊太から言うつもりはなかった。知ったことではない。
ただ、敵対心のようなものは生まれた。自分が敵視される理由はわかっていたけれど、だからと言ってはいそうですかと言いなりになるもの癪だった。
「……初対面でこういうこと言うのも失礼ですけど」
来たな、と俊太は冷えた頭で構えた。
「二人に、近付かないでください」
「なんで?」
初対面で言われるようなことではない。誰がどんな交友関係を持とうが、第三者には関係のないことだった。悠平が言うのはお門違いだったが、俊太にはその気持ちがわからなくもない。それでも理由を問いただすのは、癪だったからだ。
「君に関係なくない?」
「っ……でも」
「俺が何しても、誰と仲良くしても、君には関係ないでしょ」
もうこいつは俺に何も言い返せないな、と俊太が壁から背を離した瞬間、悠平がぎゅっと拳を握りしめたのがわかった。
「ゆりはともかく、あずは……あずは、世の中のことがよくわかってない。色んなことをまだ、知らないんです。……悪影響を、与えたくない」
「……俺が悪影響って言いたいの?」
悠平が何か言おうと口を開いた瞬間、くん、と身体が傾いだ。何も気付いていないあずが、悠平の手を引っ張っていた。一緒に俊太の手も引いて、購買の方に連れて行こうとした。
無邪気な笑顔に、毒気を抜かれた気持ちになった。なんとなく二人で顔を向かい合わせ、ばつが悪そうに目を反らした。
「俊太くん、悠平、余ったからこれあげる!」
購買からゆりが大きな声で言い、両手にパンをぶらさげた。
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