それでも優しい恋をする | ナノ


1  




「あれ、俊太くん珍しい」

 次の日、朝一で俊太は購買に向かっていた。開店準備をしていた真知子は驚いてその手を止めた。

「おはよー真知子さん」
「おはよ。どしたの」
「いや、ちょっとねー」

 カウンターの上を見るけれど、まだパンは並んでいなかった。いつもはジュースが並んでいる冷蔵庫もがらんどうになっている。

「いつもさ、何時くらいに業者ってくんの」
「え?……うーん、もうそろそろとは思うけど。あ、ほら」

 渡り廊下の近くに購買があるのはスペースの問題もあったのだろうが、駐車場が近くにあるというのも理由の一つだろう。車のエンジン音が聞こえて、がらがらと台車を運ぶ音が響いてきた。
 最初に来たのは飲み物だった。プラスチックケースに入った紙パックのジュースを受け取り、真知子が並べていくので俊太もなんとなく手伝った。

「なに、バイト?お給料でないよ」
「期待してないって」

 すべて入れ終わったところで、もう一台車が入り込んできた。ちらりと見えたワゴン車のドア部分に『ツバキ屋』の文字入れがあって、一瞬どきりとした。駐車場からドアの開閉音がして、足音が近付いてきた。
 パンの入ったプラスチックケースを持ってきたのは、姉のゆりと、あずだった。あずはゆりと身長が同じくらいで、両腕を広げてケースを抱えていた。
 やってきたのは、二人だけではなかった。もう一人ケースを抱えていたのは、俊太と同じ制服を着た男だった。学校指定の鞄をリュック背負いしている。

「おはようございまーす、って、あれ」
「おはようございまーす」
「俊太くんじゃない」

 よっこいしょ、とゆりがケースを台の上に上げると、真知子が順にカウンターに並べていった。遅れてあずと、制服の男がやってきて、俊太に気付いた。

「あず」

 少し大げさに口を動かしてあずの名前を呼ぶと、あずは「どうしてここに?」と驚いた様子ながらも嬉しそうに笑った。対して隣の男は、怪訝そうに眉間に皺を寄せていた。
 スポーツ少年然としていて、黒髪は短く、爽やかな印象だった。ケースを持っていた腕は細身ながらもしっかりとした筋肉がついていて、新聞配達でもしてそうな雰囲気だなと俊太は思いながらその険しい顔を見つめた。

「……俺、何かした?」
「いや……中園先輩、ですよね」
「俺のこと知ってんの。どっかで会ったっけ?」
「初めてだと思います。先輩、有名人なんで」

 いつの間に俺は有名人になってたんだ、と若干驚きながらも、どうして牽制されているのかと疑問に思う。先輩、と呼ばれているということは、一年生だろう。


prev / next

[ list top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -