花が待つ雨 | ナノ


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 理不尽だと思わなかったことはなかった。良かれと思ったことが結果として、自分に悪い結果として戻ってきた。まだ幼かった頃は、自分が何をしたのかと憎むこともあった。
 雨に好かれてしばらくして、そんなことはどこにだってあるのだと気付いた。良いことはすべて良いこととして返ってくるわけでもなく、悪いことは悪いこととして返ってくるわけではなかった。努力が実らないとは言わないが、因果応報に当てはまらないことだってあった。
 自分にとっての好意が相手にとっての好意とは限らないし、自分にとっての悪意は相手にとっての悪意とは限らなかった。きっとあの子どもは俺に、雨をくれたのだと思う。枯れないように、水を注ぐように。子どもにとって精一杯の、好意だったのだとも思う。
 自分の知らないところで、理不尽な行いを受けることがある。それが生きることなのだと知っても、前向きはなれなかった。俺はいつまでもずっと雨に追われて生きていかなければいけないと思うと、どうも生きる気力が湧かなかった。
 俺のせいではないものに追われるのは、もう、こりごりだった。
 だからおばあちゃんの家にくるのは、この夏で最後にしようと思った。最後の夏だった。


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