花が待つ雨 | ナノ


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 それから、俺は雨に好かれたように思う。
 民話めいた話は誰にも言えるわけもなく、ただただ自分の変化に驚くばかりだった。「傘をどこにやったの」と聞いてきたおばあちゃんに素直に答えたあの日以来、着物の子どものことは誰にも言ったことがなかった。
 俺は学校に行けなくなった。中学に上がる頃に体質の変化に慣れ、修学旅行などのイベント事には自主的に休むようになった。おかげで卒業アルバムの僕の写真は、どこも丸窓にしか入っていなかった。
 高校にあがって初めての夏、俺は相変わらず夏休みに入っておばあちゃんの家に来た。不思議とこの町では雨が降りにくく、都会の家で過ごすよりは、幾分かストレスが和らぐのだった。けれどお守り程度の傘は、いつまでたっても差したままだった。
 夏がくると自然と、この町に行かなければと思ってしまうのも、また事実だった。
 雨に好かれた俺は、雨を持ってきたこの町に帰るようになった。それはきっと、この町に好かれてしまったからだと思う。
 そんなものに好かれたって、俺はちっとも嬉しくなかった。


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