水面は相変わらず、きらきらと光っていた。ぽつ、と揺れた波紋は、最初は虫が動いたのだと思ったけれど、いくつもいくつも波紋が生まれ、雨が降ったのだと気付いた。
遠くの空は、綺麗な青だった。けれどもくもくと、入道雲がやってきていた。
顔を上げると、雨がざあざあ降ってきた。雨の冷たさは、池の冷たさとは違った。ばしゃばしゃと激しい音がしてそっちを振り向くと、薫が楽しそうに池に入ってくるところだった。足を滑らせたようで、ずぶんと一瞬水面下に姿が消えた。その様子がなんだか可笑しくて、俺は笑った。
薫が落とした涙は、たくさんの睡蓮を生んだ。それは、生きているように広がっていった。雨が睡蓮を、咲かせていった。
俺は薫ほど強くなかった。けれど、強い必要はないと思った。
きっと知らないどこかで、自分の思いもしないところで、理不尽を受けることがある。逃げられないそれは、いつだって俺を追いかけてくる。
けれど、きっと知らないどこかで、自分の思いもしないところで、誰かに恩恵を与えている。
そうやっていつか、俺の存在は肯定されていくのかなぁと、そんなことを思う。
理由をくれると言った薫のために、俺は生かされているのかもしれない。
まずは、友達になってみよう。
そのために、もう少し生きてみようと、恨むべき空を、そっと見上げた。
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