「終わりにしようと思ってるんでしょ」
今度はおばあちゃんの家の縁側で、俺は薫にアイスをごちそうした。きなこは薫の隣に寝転んでいて、薫はその背を撫でていた。
反論する気はなかったので、黙ってアイスを舐めた。シャーベット系のソーダ味。暑さがじわじわとアイスを溶かした。
「最初からなんとなく、思ってたんだよね。諦めたような顔してるなって」
「……お前には関係ないだろ」
「うん、関係ない」
強めの口調で言っても、薫は意に介した様子はなかった。縁側に投げ出した足をぶらぶらさせながら、変わらぬ様子でアイスを食べていた。シャクリと涼しい音がした。
「僕も一緒に行こうかなぁ」
「勝手にしろ」
「嘘だよ」
薫は相変わらず、にこにこと笑ってばかりだった。どこまでが本気で、どこからが嘘なのか、いつまでもわからなかった。そうやって本心を隠す術を、染みさせているのかもしれないと思った。泣いている姿がよっぽど、人間味があった。
「一緒に行ってあげたいけど、僕は行けないんだ」
「……誰もそんなこと頼んでない」
「うん、頼まれてない」
なんだか調子が狂う。
「僕はこの体質になってから、一つ決めたことがあってさ」
薫がきなこを撫でる手を背中から頭にずらした。きなこはいつものふてぶてしさをもって、目を細めて大人しく撫でられていた。
「周りのことを気にしないことにしたんだ」
「……お前結構、神経図太そうだもんな」
「ひどいなぁ」
言葉と裏腹に薫は笑うので、これもまた気にしていないのだろうと思う。
言うほど簡単ではない。人は集団で生きて行く以上、人を気にしないと生きていけないのだ。他人との間に出来たものさしでしか、自分を計ることができないのだ。それを薫は捨てて、一人で生きて行こうとしている。依存するものさしを、必要ないと思っている。
それは孤独で、つらくて、けれど強い、生き方だと思った。
「あんたが思っているよりも、ずっと楽だよ」
俺が思っていることを汲み取ってか、薫は笑いながら言った。きなこを撫でる手を止め、後ろに仰け反るように手をつく。きなこはつまらなくなったのか、気まぐれに部屋の中に歩いて行ってしまった。
「こうでもしないと、生きていけないよ」
「……それって、ある意味、お前も諦めてるだろ」
「……確かに、そうだね」
雨はいつの間にか止んでいた。雲は青空に溶けるように、逃げていった。雨上がりの独特の湿った匂いが、葉と土の匂いと混じった。これもまた、夏の匂いだった。
「でも、あんたが死んだら」
ストレートな口調で、どきりとする。
「僕は、少しは、悲しいと思うよ」
「……少しかよ」
「うん、少し」
他人に依存しないと決めた薫には、最大級の歩み寄りなのかもしれない。だったらそれくらいでもいいかと、俺はその場に寝転んだ。
薫はいつだって、花の良い匂いがした。その匂いは夏と混じって、どこか懐かしかった。
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