きこえる | ナノ


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「俺はずっと、朔が好きだったよ」

 まどろみの中でそう言う父さんの声が聞こえた。

「ずっと、好きだった。ずっと、俺のモンだ」

 ベッドに寝転んだ僕の頭を撫でながら、父さんは言う。
 僕はもう、眠たい。
 素肌に直接触れるシーツが冷たくても、丸まって自分で暖をとった。父さんは肩まで布団をかけて、また頭を撫でてくれる。

「俺の血を持った、俺のモンだ。……誰にも、渡さねぇ」

 歪んだ愛情。マスターは一度、僕の父さんをそう評したことがある。
 それが愛情であるならば、僕は受け入れるしかないのだろう。
 この人の血を受け継いでいるのなら。

 暴力が支配力なら、それもまた愛情の現れだったのかもしれない。
 こうして父さんが僕を連れ戻そうとしたのも、優しくしてくれるのも愛情なのかもしれない。

「朔、お前は、俺のモンだろ?」

 今の父さんは優しい。
 怖かったときの父さんも、本当は優しかったのかもしれない。
 僕が気付いていなかっただけで、優しさを受け取れる余裕がなかっただけだったのかもしれない。

 ただ、もう眠たい。
 父さんの問いには答えられないまま、目を閉じた。
 そのベッドは新品のように匂いがしなかった。

 佐伯さんの匂いを、ふと思い出した。
 どんなピアノを弾いていたのかは、もう、思い出せなくなっていた。


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