「っ……」
いやだ、と思った。けれど抵抗する力も声も僕にはなかった。
腰の傷痕を舐めていた父さんの吐息が、するすると上に上がってきた。肩に唇を押し付けられて、じゅ、と吸われる。
ちり、と痛んだ。
「……相変わらず、ほっせぇな」
ぽつりと言葉を漏らされ、肩から上着をかけられた。何があったのかわからない。ぼんやりとしていると、ソファに座る父さんの膝の上に座らされ、向かい合わせになった。
「怖かったか?」
「…………」
怖かった。何をされるかわからない、そんな恐怖だった。
「ごめんな」
ふわ、と抱き締められた。
額に、瞼に、耳にキスをされた。首筋を撫でる手は優しく、舐めるようだった。
父さんからこんなことをされるのは初めてだった。だから戸惑った。からかうようなそれなのか、愛情を与えるそれなのか、判別もつかなかった。
「朔」
怖いことをされるかもしれない。また、痛い思いをするかもしれない。
父さんにとって僕は格好の餌食で、今だってそうしようと思えば、すぐにだって痛めつけることだってできる。
でも、父さんはそうしなかった。ただ優しい言葉をかけて、謝り、抱き締めてくれていた。
あの時の父さんは、もう、いなくなってしまったの?
「朔」
優しい声だ。もう、あの時の父さんとは違う。
綺麗な男は、綺麗に笑う。
肩にかけられたままの上着が、ぱさりと落ちた。僕の筋肉の全くついていない貧相な身体を、父さんはまじまじと見つめる。
「っ……」
肋骨の浮いた肌を撫で、そこに唇を這わせていった。
くすぐったさと、少しの恐怖と、不思議な感覚と。父さんは僕が抵抗しないようにか、両腕をきゅっと握っていた。
「朔、嫌?」
嫌だ、嫌に決まっている。
それでも、僕は抵抗しなかった。
今の父さんは、ずっと優しい。
「いい子だな」
「っ」
息が詰まった。首筋にちゅ、と唇を這わされた。
どうして父さんがそんなことをするのか、もう考えてもわからなかった。
ただ、解されるように、懐柔されていくのだけは感じていた。
それほどまで、僕は父さんに愛されたかったのだ。
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