頭を抱えながら背中を撫で続けていると、段々と朔くんの呼吸がゆっくりになってきた。
「落ち着いた?」
身体を離して顔を覗き込むと、じ、と見つめられた。上目遣いの大きな目から、ぽろぽろと涙が流れていた。
もう朔くんは、泣いた顔を隠そうとしなかった。
「俺、朔くんの泣いた顔ばっかり見てる気がするなぁ」
服の袖を伸ばして拭ってやると、くすぐったそうに肩を竦めていた。拭っても、涙は次々と溢れていた。目が腫れてしまうかもしれない。
「気分はどう?」
こく、と朔くんは頷いた。意思を示せるほど落ち着いたようだ。
じっと、朔くんは俺の顔を見る。何かを問うような目だった。疑っているようにも見える。見透かすようなそれに、俺は笑った。
「具合良くなったみたいで、良かった」
「…………」
言うと、驚いたように目を見開いた。
侮蔑の言葉を投げられると、思ったのかもしれない。どうして、と言っているような不安そうな顔をされた。
「………正直、最初はびっくりしたよ。でも、昔のことでしょう?」
「っ…………」
「何があったか知らないけど、俺には関係ないよ。朔くんは、朔くんでしょう」
目が震えた。あぁ、泣くなぁ、と思った。
肯定されることを、朔くんはされ慣れていない。
「あんまり泣くと、無くなっちゃうよ」
朔くんは手で目を何度も擦っていた。
あっ、と声を上げそうになる。朔くんの手に隠れて見えた口は、確かに弧の字を描いて、静かに笑っていた。
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