「はぁ…………」
「……なんだよ、辛気臭い顔しやがって」
朔くんに追い出された後、俺は一度家に戻り、仕切り直して昨晩の店に来ていた。カウンターで突っ伏していると、高校の先輩である永末さんから小突かれた。
「昨日の子、大丈夫だったんか」
「うーん、まぁ…………」
「何だよその返事。まさか放置ってことねぇだろうな」
だいぶ具合悪そうだったけど、と付け加えられる。
「いや、家まで送って、今朝まで様子みてましたけど……」
「だったら何でそんな落ち込んでんだよ」
はぁ、とまた溜息が出た。
朔くんが見られたくなかったものを見てしまったのは悪かったと思っている。そう思って謝ったし、弁解もした。見ようと思って見たわけでもなく、仕方なかったところもあるのだ。
けれど思いのほか、朔くんは傷ついた顔をしていた。怯えにも似た表情を俺に向けていた。近付こうとした俺に、枕を投げつけて牽制したのだ。
どうしたら良かったのか、わからなかった。あのまま謝り倒していたら良かったのか。「もういい」と許すような、そんな感じでもなかった。
ようやく少し、仲良くなれたと思ったのに。
「どうしたら良かったんですかね…………」
「……いや、俺には話が見えねぇけど」
「…………あの子が見られたくなかったもの、俺が見ちゃって、喧嘩っぽくなっちゃったんです」
「見られたくないもの?エロ本?」
「……それだったらまだ可愛いもんですよ……」
ふむ、と永末さんは顎に手を置いた。
「喧嘩って、相手怒ってんなら謝るしかないだろ」
「謝りましたよ……いや、怒ってるっていうより、悲しそうな感じで」
「悲しい?なんだそりゃ」
あの時の朔くんの顔が浮かんだ。
「見られたのが嫌だったなら、普通怒るだろ。悲しそうなら、お前に何か知られたくなかったことがあるんじゃねぇの」
「知られたくない?」
「軽蔑されたくないとかな。見られるのが嫌っていうより、何か思われるのが嫌なんじゃねぇの」
はっとした。誰だってあんな過去、知られたくはないだろう。自慢できるものではない。甘えるのが苦手で、泣き顔さえ見せようとしない朔くんは、俺にどう思われたくなかったのか。
憐れみか蔑みか、どちらにしろ、俺はそう思わない。
「お前はそれ見てどう思ってんのか、伝えてやれば」
俺は勢いよく立ちあがった。
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